2008年03月08日

『稲のはじまり』

 ずうっとむがしのごどだど。
人が稲など見だごどねえどぎに、お稲荷様のお使いで、狐ぁ唐の国さ行って、

「稲どいうなの穂貰ってこい、穂どいうなは稲の種だがら、そいづどご大事に貰ってこいよ」て。
  ほうして唐の国さ狐、お使いに行ったなよ。
狐は唐の国がら、その穂っていうな一本貰ってきて、
お稲荷さまんどさ行ぐどしたらば、人に見つかったんだど。
「狐ぁなんかくわえできた。あれなんだべな」
って、人みんながら狐ぁおっかげらっちゃども。
狐ぁ一生懸命走ったそうだげんども、
口さ穂くわえだまんまなもんだがら、
口あがんにぇし、口あがんにぇど息もさんにぇもんだがら、
沼のどさ来たどぎに、一本の穂どご沼の泥の中さ隠して、
ちかぐの葭(よし)一本くわえで切って、その先さ泥付けで、
目印に立ででがら、お稲荷様んどごさ帰ったど。
ほうして、
「人に追っかけらっちぇ、穂貰ってきたんだげんど、こごまで持ってこらんにぇがったがら、途中さ隠しったがら、一緒に行って探しておごやんねが」
て、お稲荷様さ頼んだど。
  お稲荷様ど狐で沼の端まで行ってみだらば、さごって、いっぱい実なってだったど。
「はぁ、これが稲っていうもんだな、こりゃ」
お稲荷様、
「よぐ戻ってきた。お前、よぐこごさ目印の葭棒一本立ででったな」
今では、苗代こしゃった時、苗実の竹だて、真中さ葭棒一本、ちょこんと立でだものがよ。そいづのなごりで立でであったもんだど。
とーびんと。

山形弁訳

 ずうっと昔のことだと。
人が稲なんて見たことのないときに、お稲荷雅のお使いで、狐は唐の国に行って、
「稲というものの穂を貰って来い、穂というのは稲のたねだから、そいつを大事にもらってくるんだぞ」て。
  ほうして唐の国に狐、お使いに行ったんだと。狐は唐の国から、その穂というもの一本貰ってきて、お稲荷様のところに行こうとしたら、人に見つかったんだと。
「狐が何かくわえていた。あれなんだろうな」
って人みんなに狐は追いかけられたんだそうな。
狐は一生懸命走ったそうだけれども、口に穂くわえたままなものだから、口を開けられないし、口が開けられないから息もできないものだから、沼のところに来たときに、一本の穂を沼の泥の中に隠して、近くの葭(よし)一本くわえて切って、その先に泥を付けて目印に立ててから、お稲荷様のところに帰ったんだと。
ほうして、
「人に追いかけられて、穂を貰ってきたんだけれども、ここまで持ってこれなかったから、途中に隠してきたから、一緒に行って探して遅れませんか」
て、お稲荷様にたのんだんだと。
お稲荷様と狐で沼の端まで行ってみたら、さごって、いっぱい実がなっていたんだと。
「はぁ、これが稲っていうものだな、こりゃ」
お稲荷様、
「よく戻ってきた。お前、よくここに目印の葭棒一本立てておいたな」
今では、苗代拵(こしら)えたとき、苗実の竹だて、真中に葭棒一本、ちょこんと立てたものが、そのときの名残で立てているものなんだと。
とーびんと。

2008年03月08日

 むがあしむがあし、あるどごさ、

  とでも器量よしの娘いだっけど。器量はいいんだげんども、少しばかり頭われ娘だっけど。
  その娘ぁ見込まっちぇ、とっても、だんなす(金持ち)の家さ、
  嫁に貰われるごどになったなだそうだ。
  お母ぁは心配してはぁ、
「お前は顔つぎはいいんだげんども、喋るごどはぞんざいで困ったもんだ、
  喋っときには、何でも[オ]をつげっと、いぐ聞こえっから、
人ど喋っとぎは[オ]つげで喋れよ」
っておしぇらっちぇ、むがさりさ行ったけど。
  そうして、しばらぐしてがら、流しで後仕舞しったけど。
  そうしたら、流しの窓の隙間がら風はいってきて、
  柱さぶらさげったった擂粉木棒が、コトンコトンと鳴ったんだど。
ほしたら、嫁は、みなの居だ囲炉裏側さ来て、
「あのなぁ、お窓のお隙間がらお風が入ってきて、お擂粉木棒が、おコトンおコトンって鳴ったっけっし」
と言ったんだと。嫁は何にもしゃべんねど悪い、ど思って喋ったんだげんども、
  ははぁ、家で[オ]つげで喋ろ、っておしぇらっちぇきたなぁ、
  と思ったお母さは、
「あのな、[オ]つけんなはな、とってもいいごどだげんども、
  何さも、かにさも[オ]つけねくたっていいごでぇ」
とおしぇらっちゃど。
  次の朝、みな揃って、御飯食っていだどぎに、向かいさ座ってだお父っつぁまの、おどがい(あご)さ御飯粒ついったったんだど。
  嫁は、ははぁ、おもしぇなぁ、んだげんどこれは黙ってらんにぇべなぁ、ど思って、
「あのなっし、ヤジ、ドガエさ、ママついで、ラ、ガシ、ラ、ガシ」
・・・親父のおどがいさ、御飯粒ついで、おら、おがし、おら、おがし。
って、言いっちぇがったんだげんど、
  [オ]つけねだっていいって、おしぇらっちゃもんだがら、[オ]どごとったらば、そういう言葉になったんだど。
  ほだがら、馬鹿になんねように、勉強しとがんなねもんだど。
  とーびんと。

山形弁訳

  むかしむかし、あるところに、
とても器量よしの娘がいたんだと。器量はいいんだけれども、少しばかり頭の悪い娘だったそうな。
  その娘は、見込まれて、とてもお金持ちの家に嫁に貰われることになったのだそうな。
  お母さんは心配して、
「お前は顔付きはいいんだけれども、喋ることはぞんざいで困ったものだ、喋るときには、何でも[オ]を付けると、よく聞こえるから、人と喋るときは[オ]を付けて喋るんだよ」
って教えられて、嫁入りしたんだと。
  そうして、しばらくしてから、流しで後仕舞をしていたんだと。
  そうしたら、流しの窓の隙間から風が入ってきて、柱にぶら下げている擂粉木棒(すりこぎぼう)が、コトンコトンとなったんだそうな。
そしたら、嫁は、皆のいる囲炉裏側に来て、
「あのなぁ、お窓のお隙間からお風が入ってきて、お擂粉木棒が、おコトンおコトンってなったんですよ」
と言ったんだと。嫁は何にも喋らないのは良くないと思って喋ったんだけれども、
  ははぁ、家で[オ]をつけて喋ろって教えられてきたな、
  と思ったお母さんは、
「あのな、[オ]をつけるのは、とてもいいことなのだけれども、何でもかんでも[オ]を付けなくてもいいんだよ」
と教えたんだと。
  次の朝、皆揃って、御飯食べていたときに、向かいに座っているお父さんのあごに御飯粒がついていたんだと。
  嫁は、ははぁ、おもしろいなぁ、でもこれは黙っていたらいけないだろう、と思って、
「あのな、ヤジ、ドガエに、ママがついてて、ラ、ガシ、ラ、ガシ」
・・・親父のおどがいに、御飯粒がついていて、おら、可笑しい、おら、可笑しい。
って言いたかったんだけれども、
  [オ]を付けなくてもいいって教えられたものだから、[オ]をとってしまったら、そういう言葉になったんだと。
  だからな、馬鹿にならないように、勉強はしておくものなんだと。
 とーびんと。

2008年03月08日

 むがしむがし、あるどごさ長者様いだっけど。

  長者様の家さ、めんごい一人娘いだったそうだ。
  その娘ぁ、昔話が大好ぎで大好ぎで、飽ぎるごどしゃぁねごんだど。
  長者様は、めんごい娘に、昔話いっぺ知ってだ婿もらって呉っぺど思って探しったけど。
  ほうしたら、一人の男が訪ねできて、
「俺は飽ぎるほど語られる」
と名乗り出たんだと。ほして語ってもらったどごろぁ、語っても語っても娘は飽ぎねくて、男はとうとう逃げで帰ってしまったっけど。
  ほしたら又、一人の男が訪ねできて、
「俺も飽ぎるほど語られる」
というもんだがら、語ってもらったんだど。
  これも又、語っても語っても、娘は飽ぎねくて、語り尽ぐしてしまったんだど。
  男は、語り尽ぐしてしまったし、語り疲っちゃしはぁ、しばらぐ、考えだごんだど。
  ほうして、じぎに暖がくなっと蛇ででくんなぁ、ど思って語り始めだど。
「むがあしむがあし、大光院の大きな木の根っこさ、蛇の穴あったっけど、そっから蛇ぁでできて、
  今日ものろのろ、のろのろのろのろ
  明日ものろのろ、のろのろのろのろ
  明後日ものろのろ、のろのろのろのろ
  やなさっても、のろのろ、のろのろのろのろ
  毎日のろのろ、のろのろのろのろ
  のろのろのろのろ、のろのろのろのろ」
ど、ずっとのろのろ語って聞がせだど。
のろのろがあんまり続ぐもんだがら、
長者の娘はとうとう、
「飽ぎだはぁー」
ど言って、若者は長者様の婿にもらわっちぇ、幸せに暮らしたんだどうだ。
  ほだがらなぁ、何ごどさも知恵ば働がして、根気強ぐしんなねもんなんだど。

 とーびんと。


山形弁訳

 むかしむかし、あるところに長者様がいたそうな。
  長者様の家には、かわいい一人娘がいたんだそうだ。
  その娘は、昔話が大好きで大好きで、飽きることを知らないんだと。
 長者様は、かわいい娘に、昔話を沢山知っている婿を貰ってあげようと思って探してたんだと。
 そうしたら、一人の男が訪ねてきて、
「俺は飽きるほど語られる」
と名乗り出たんだと。そして語ってもらったところ、語っても語っても娘は飽きなくて、男はとうとう逃げて帰ってしまったど。
 そしたらまた、一人の男が訪ねてきて、
「俺も飽きるほど語られる」
というものだから、語ってもらったんだと。
 これもまた、語っても語っても、娘は飽きなくて、語りつくしてしまったんだと。
 男は、語りつくしてしまったし、語り疲れたしではぁ、しばらく、考えたんだと。
 そうして、じきに暖かくなってくると蛇が出てくるなぁ、と思って語り始めたど。
「むかあしむかあし、大光院の大きな木の根っこに、蛇の穴あったっけど、そっから蛇がでてきて、
  今日ものろのろ、のろのろのろのろ
  明日ものろのろ、のろのろのろのろ
  明後日ものろのろ、のろのろのろのろ
  やなさっても、のろのろ、のろのろのろのろ
  毎日のろのろ、のろのろのろのろ
  のろのろのろのろ、のろのろのろのろ」
ど、ずっとのろのろ語って聞かせたんだと。
のろのろがあんまり続くものだから、
長者の娘はとうとう、
「飽きたー」
って言って、若者は長者様の婿に貰われて、幸せに暮らしたんだと。
 だからな、何事も知恵を働かせて、根気強くしなければならないものなんだと。

 とーびんと。

2008年03月08日

あるどごで婿さんもらったども。

  婿さんは親類の家さ、
「お前んどごで初婿もらったな、おら家さよごして呉ろ」
なて言わっで招ばっで行ったんだども。
  そして招ばっで行ったらば、
「ああ、婿さん、お前がぁ。いや実はお前さ飲ませっかど思って、梁の上さ、酒作っていだなよ。いま、梁さ上がって酒瓶降ろすがらよ、お前、尻、ぎっとつかんでで呉ろやい。でーんと落すど、ぼっこれっど悪れがら、ぎゅっとつかんでで呉ろよ」
て頼んで、そこの家の親父ぁ、梁の上さ、梯子かけて登って行ったども。
  ほうして、仕込んでだなさ、縄かげて、
「ええか、落とすぞ」
て、ずずーッと落としたども。
「ええが、尻押えんなねぞ。尻ぎっちり押さえろよ」
「ああ、押さえっだ、押さえっだ」
  下で婿言うもんだから、
「ほら、いまちいとだぞ。いまちいとだ、ちいとだ」
「ほんだら、ええがんべが」
  いま少しで届きそうだて、親父、はっと縄放したども。
ほしたらば、瓶がガチャーンと落ぢで割っちぇしまった。
「なえだ。あれほど、あがえに尻押さえでで呉けろよ、て頼んでだのば、なして押さえでで呉ねなんや」
ほしたら婿さんは、
「ほら、さっきから、おれの尻押さえっだぜぇ」
て。
  尻間違いだったけど。
どんびんと。

山形弁訳

  あるところで婿さんをもらったんだと。
  婿さんは親戚の家に、
「お前のところで初婿貰ったのを、俺の家に来させてくれ」
なんて言われて招かれて行ったんだと。
  そして招かれて行ってみたら、
「ああ、婿さん、お前かぁ。いや実はお前に飲ませようと思って、梁の上に、酒を作っていたんだよ。いま、梁に上がって酒瓶降ろすから、お前、(酒瓶の)尻、ぎゅっとつかんでてくれ。でーんと落すと、こわれるといけないから、ぎゅっとつかんでてくれよ」
て頼んで、そこの家の親父ぁ、梁の上に、梯子かけて登って行ったんだと。
  ほうして、仕込んでいた酒瓶に、縄をかけて、
「ええか、落とすぞ」
て、ずずーッと落としたんだと。
「ええが、尻押えなきゃならないんだぞ。尻ぎっちり押さえろよ」
「ああ、押さえてる、押さえてる」
  下で婿が言うものだから、
「ほら、もうすこしだぞ。もうすこしだ、すこしだ」
「それじゃあ、大丈夫だろうか」
  もう少しで届きそうだって、親父、はっと縄放したんだと。
ほしたらば、瓶がガチャーンと落ちて割れてしまった。
「なんだ。あれほど、あんなに尻押さえててくれよ、て頼んでたのに、なんで押さえててくれなかったんや」
そしたら婿さんは、
「ほら、さっきから、おれの尻押さえったぜぇ」
て。
  尻間違いだったけど。
どんびんと。

2008年03月08日

むがあしむがあし、とんと昔のごどだ。

 ある処さ、親父とおっかぁ居だっけど。
 その人達ぁ、とんと働ぎ者でよ、朝げ早ぐがら夜遅ぐまで働ぐ人で、酒も飲まねで、煙草も吸わねで、銭いっぺたまってだっけど。
 そごの家の天井さは、貧乏の神いだっけど。
ほだげんどもなぁ、そごの家の親父どおっかぁ、あんまり働ぐもんだがら、その家さ、居らんにぇぐなっかったんだど。
  ほうして年越しの晩、貧乏の神は、
「あーん、あーん」
って泣いったけど。家の人達は、
「なんだえ天井で誰が泣ぐ音すんなぁ、誰だべ、こげな夜中によ」
  行ってみだれば、貧乏の神だったんだど。
「貧乏の神貧乏の神、なしてそがいに泣いったなだ」
って聞いでみだらば、貧乏の神は、
「あーん、あーん。俺よ、こごの家さいづまでも厄介になっていっちぇんだげんども、お前様達ぁ、あんまり働ぐもんだがら、俺ぁ出で行がんなねぐなったなよ、じぎいに福の神ぁ来て、俺ぼたされんなよ。ほだげんど、俺ぁどごさも行ぐどごねくて泣いったんだ」
  それを聞いだ親父とおっかは、
「何だ。もごさいごど。このまま居でけろ、福の神来ただって追っ払って呉っがらよ」
って言って、貧乏の神ぁ喜んで、
「いがったいがった。ほんじゃ俺さ飯一杯御馳走してけろ。飯食(か)ねど腹さ力はいんねくて」
と赤い魚で飯一杯食ったど。
そうしたどごろぁ、
「とんとん」
と戸叩いで福の神ぁ来たんだど。
「貧乏の神貧乏神、こごの家はお前の居るどごでねぇ、どさでもいいがら早ぐ出で行げ」
って言ってどんどん入って来たなだっけど。
  貧乏の神は、これは大変だぁ、って一生懸命おっつけだっけど。負げそうになったら、、親父どおっかも貧乏の神に助太刀して、福の神どごおっつけでやったど。
  福の神は、
「あーあ、これはかなわね」
って逃げでったど。
あんまり急いで逃げだもんだがら、打ち出の小槌という物落どして行ってしまったっけどはぁ。
  打ち出の小槌ってなはな、
「米出ろ」
って言うど米。
「金出ろ」
って言うど金。
なんでもいっぺ出すもんだっけど。
貧乏の神ぁ、
「これぁ、いい物置いでって呉っちゃ」
って喜んで、喜んで、
「米出ろ、金出ろ、米出ろ金出ろ」
って言ったもんだがら、家の中じゅう米ど金だらけになってしまったっけどはぁ。
  ほうして貧乏の神は福の神になって、そごの家は益々繁盛して、親父どおっかぁは、楽々暮らしたっけど。
  ほだがらなぁ、見かけや名前だげで、良し悪しはきめらんにぇもんなんだど。

  とーびんと。

山形弁訳

 むかしむかし、とんと昔。
 ある処に、親父とおっかぁ居たんだと。
 その人達は、とても働き者で、朝早くから夜遅くまで働く人で、酒も飲まないで、煙草も吸わないで、お金いっぱい貯めていたんだと。
 そこの家の天井には、貧乏の神居たんだと。
だけれども、そこの家の親父とおっかぁが、あんまり働くものだから、その家に居られないようになったんだと。
  そして年越しの晩、貧乏の神は、
「あーん、あーん」
って泣いていたんだと。家の人たちは、
「なんだろう、天井で誰か泣く音がするなぁ、誰だろう、こんな夜中に」
  行ってみたら、貧乏の神だったんだと。
「貧乏の神貧乏の神、どうしてそんなに泣いているんだい」
って聞いてみたら、貧乏の神は、
「あーん、あーん。俺よ、ここの家にいつまでも厄介になっていたいんだけれども、お前達は、あんまり働くものだから、俺は出て行かなきゃならなくなったのよ、じきに福の神が来て、俺追い出されるんだよ。だけど、俺はどこにも行くところが無くて泣いているんだ」
  それを聞いた親父とおっかぁは、
「なんだ、かわいそうだこと。このまま居てちょうだい、福の神来たって追い払ってやるからよ」
って言って、貧乏の神は喜んで。
「よかったよかった。それじゃあ俺にご飯一杯ご馳走してください。ご飯食べないと腹に力が入らなくて」
と赤い魚でご飯一杯食べたんだと。
そうしたところに、
「とんとん」
と戸叩いて福の神が来たんだと。
「貧乏神貧乏神、ここの家はお前のいるところじゃない。どこへでもいいから早く出て行け」
って言ってどんどん入ってきたんだっけど。
  貧乏の神は、これは大変だぁ、って一生懸命押しやったっけど。負けそうになったら、親父とおっかも貧乏の神に助太刀して、福の神を押しやったっけど。
  福の神は、
「あーあ、これはかなわない」
って逃げて行ったど。
あんまり急いで逃げたものだから、打ち出の小槌というものを落として行ってしまったっけど。
  打ち出の小槌っていうものはな
「米出ろ」
って言うと米。
「金出ろ」
って言うと金。
なんでもたくさん出すものだっけど。
貧乏の神は、
「これは、いいもの置いてってくれた」
って喜んで喜んで、
「米出ろ、金出ろ、米出ろ、金出ろ」
って言ったもんだから、家の中じゅう米と金だらけになってしまったっけど。
  そうして貧乏の神は福の神になって、そこの家は益々繁盛して、親父とおっかぁは、楽々暮らしたんだと。
  だからな、見かけや名前だけで良し悪しは決められないものなんだと。

どんびんと。

2006年04月07日

『サトリの化物』

前に、もう今はあんまり使わねげんど、カンジキ(雪の上の履物)だの、

箕作りに使うなな、その木採んなに、山さ引っ込んで、何日も泊まって、材料採りしったもんであったけど。
 ある秋の日短ぐなったころ、あるカンジキの木採りが、山さ引っこんで一生懸命カンジキの木採って、ぎいっと曲げて、拵(こしゃ)えがだしったった。
 ほうして夕方なったがらどて、持って行った餅でも焙って、夕飯の代わりにすっかなぁなて、餅焙りしったけど。
 ほうして、傍らさ、一生懸命曲げたカンジキの元の木、囲炉裏の端さ乾して。
ほしたば、丁度ええぐ餅焼げたころな、小屋の入口そっとあけで、大きな男が髭ぼうぼうどしたな入って来て、
「あら、おっかねごどなぁ、何だごと、人の家さ黙って入ってきて・・・」
て、カンジキ拵えの親分は心で思ってだうち、
「こりゃこりゃ、何だごと、おっかねごど、黙ってのそっと入って来たど、今思ったべ」
「おっかねごどなぁ、これがサトリつうもんだべなぁ」
て思ったど。
「おっかねごどなぁ、これぁサトリつうもんだべて、今思ったべ、親分」
 サトリざぁ、人の思ってだごど、かまわず悟んのだど。
思ってだごどぁ、まっすぐ当でられんなだど。
「どれぁ、んじゃ、餅一つごっつぉなっかなぁ」
なて、焙ってだ餅、端っこの餅から、むしゃらむしゃらて、親分食うど思った餅、ひとワタシ全部食って、
「どれ、親分、いまひとワタシ出してかせろ」
「はて、明日の食うなもねぐなんべな」
と思って、また焙ってだら、むしゃらむしゃら、まだ食い始めた。
「よーし、こんなごしゃげる、おもしゃぐねぇごと。こんど燃え柴でも顔さくっつけっじゃえな」
なてごしゃいでいだけど。
「親分、ごしゃげっこと。燃え柴、顔さつけでけんなねて思ってんべ」
 いや、おっかなくて、何でも思ったごど悟るもんだから、ぶるぶるていたけども。
ほうしたらば、そのうぢカンジキぁ拵ってだな焼げで、ひとりではじげで、バーンて山男のサトリの顔面さはじげだど。
ほしたらサトリは、
「いやいや、おっかねごどおっかねごど、人間どいうもの、何だがさっぱりわがんね。さっぱり思ってねで、一人でこんなごどするもんだ。いや、人間はおっかね」
なて、サトリ逃げで行ったど。
 サトリざぁ、おっかねもんで、人間思ったごど、すぐ悟ってしまうんだど。
んだげんど、人間ざぁ、こんど自分思っていねごどで、顔、はじがっじゃ。
それがらは出ねぐなったし、山で仕事、小屋掛けですっどぎ、必ず入口さ輪ッか拵ったのぶら下げどぐど、魔除けになったもんだけど。

どんびんと。

山形弁訳
 前に、もう今はあまり使わないけれども、カンジキ(雪の上の履物)だの、箕作りに使うものな、その木を採るのに、山に引っ込んで、何日も泊まって、材料採りしていたものだったと。
 ある秋の日短くなってきたころ、あるカンジキの木採りが、山に引っ込んで一生懸命カンジキの木採って、ぎいっと曲げてこしらえかたをしていたんだと。
 そうして夕方になったからと、持って行った餅でも焙って、夕飯の代わりにしようかなぁなんて、餅を焙っていたんだと。
 そして傍らに、一生懸命曲げたカンジキの元になる木を、囲炉裏の端に乾かして。
そしたら、丁度よく餅が焼けたころにな、小屋の入口をそっとあけて、大きな男、髭ぼうぼうとしたのが入ってきて、
「あら、恐ろしいなぁ、なんなんだ、人の家に黙って入ってきて・・・」
ってカンジキ拵えの親分は心で思っているうちに、
「こりゃこりゃ、なんなんだ、恐ろしいなぁ、黙ってのそっと入ってきたって、今思っただろう」
「恐ろしいなぁ、これがサトリっつう者なんだろうなぁ」
「恐ろしいなぁ、これがサトリっつう者なんだろうなぁって、今思っただろう、親分」
 サトリというのは、人の思っていることをかまわず悟るんだと。
思っていることは、まっすぐ当てることができるんだと。
「どれぁ、それじゃあ、餅一つご馳走になるかなぁ」
なんて、焙っている餅、端っこの餅から、むしゃらむしゃらって、親分が食べようと思っていた餅、ひとワタシ全部食べて、
「どれ、親分、もうひとワタシ出して食わせろ」
「はて、明日の食べる分もなくなるんだろうな」
と思って、また焙っていたら、むしゃらむしゃら、また食べ始めた。
「よーし、かなり腹が立って、面白くない。こんど燃え柴でも顔にくっつけてやりたいな」
なんて怒っていたんだと。
「親分、腹立つこと。燃え柴でも顔にくっつけてやりたいって思ってるだろう」
 いや、恐ろしくて、何でも思ったこと悟るものだから、ぶるぶるっていたんだと。
そしたら、そのうちカンジキを拵えているやつが焼けて、ひとりではじけて、バーンって山男のサトリの顔面にはじけたんだと。
そうしたらサトリは、
「いやいや、恐ろしいこと恐ろしいこと、人間というものは何がなんだかさっぱり分からない。さっぱり思ってもいないのに、一人でこんなことをするものなのか。いや、人間は恐ろしい」
って、サトリは逃げて行ったんだと。
 サトリというものは、恐ろしいもので、人間が思ったことをすぐ悟ってしまうんだと。
だけれども、人間というものに、今度は自分が思っていないことで、顔をはじかれた。
それから、サトリは出なくなったし、山で仕事、小屋掛けでするときには、必ず入口に輪っか拵えたものをぶら下げておくと、魔除けになったものだったんだと。

どんびんと。

2005年12月31日

『三枚のお札』

むがし、むがしあったど。

彼岸が来て、綺麗な姉様寺参りさ来たっけど。
あんまり綺麗な姉様だもんだがら、寺の小坊主、ボーっとなって、姉様の下駄隠しだど。
帰りに姉様の下駄ねぇもんだがら、
「小坊っちゃ、私の下駄ねえなよ。後でお礼すっから、下駄探しておごやぇ」
って頼んだど。ほうして、
「私は、山奥のほうさ住んでだがら、栗が沢山なったら、お礼に栗食いに来とごぇ」
って言って帰って行ったど。
 秋がきて、綺麗な姉様のごど思い出して、行ぎだくなって、和尚様さ頼んだど。
 和尚様は、
変な姉様だったげんど、大丈夫だべがなぁ。
って思ったげんど、仕方ねぐ、
「有難い経文札三枚呉(け)っちぇやっから、困った時、危険な目さ遭った時、お札さ願いかげで頼めよ」
って、三枚のお札貰って山奥さ行ったど。
小坊主が姉様の家さ着ぐど洗濯しったけど。
「よぐ来とごやった、さぁさぁ上がっとごやぇ」
「丁度、栗のさかりだがら、洗濯終わるまで栗拾いしてきとごやぇ」
って言われ、裏山がら籠いっぱい拾ってきたど。
ほうして、煮だり、焼いだりして、栗いっぺごっつぉになったど。
「小坊っちゃ、日暮れできたがら、これがら戻んなは大変だべ。今夜は泊まっていったらいいんねが」
って言われで、座敷さ泊めでもらったど。
ほして、夜中に、パチパチって火の燃える音して、目覚めだど。
そしたら、姉様ぁ鬼になって火焚ぎしったっけど。
「栗いっぱい食った小坊主は、なんぼが、んめがんべなぁ」
ってブツブツ言ってだっけど。
  俺食われでしまう、逃げ出さんなね。

と思案したど。
「姉様、俺、雪隠(便所)さ行ってくる」
って言ったけど。
「ほんじゃ、腰さ綱付けで行げ」
長い綱付けらっちぇはぁ、雪隠さ行ったど。
そして考えだど。
雪隠の取っ手さ一枚のお札つけで、
「呼ばっちゃら、返事してけろな、頼む」
って言って逃げ出したど。
あんまり雪隠がら戻って来ねもんだがら、姉様、鬼の顔丸出しで、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
って聞いだど、お札は、
〈まだだぁ〉
って返事したっけど。
その間、小坊主ぁ一心不乱に逃げだど。
それがら又、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
〈まだだぁ〉
三回も四回も五回も呼んだげど、返事はすっけんども、さっぱり出でこねがったど。
おがしなぁど思って行ってみだらば、綱どお札しかねがった。
「小坊主に逃げらっちゃ、まだその辺さいだべ」
と、鬼ぁ小坊主どご追っかげだど。
鬼の足ぁ早いもんだがら、たぢまぢ追いつがっちぇ、取って食われっとごだったど。
和尚様がらもらった、有難い経文のお札又一枚出して、
「大っきい大っきい砂山になれ」
ってお札投げでやったど。
そしたら、大っきな、とんでもねぐ大っきな砂山出来だど。
鬼ぁ登っと、ズルズルズルズル崩っちぇ、ながなが(なかなか)登らんにぇがったど。
ほだげんど、鬼の足ぁ早いもんだがら、又追いついで、食われそうになったど。

もう一枚残ってだお札さ、願いこめで、
「大川になれー」
って叫んでお札投げでやったど。
堤のように大っきな川が流れ出したっけど。
又鬼ぁ、流されそうになっても、必死になって泳いできたげんども、流れが強くて、ながなが岸さ辿り着がんにぇんだど。
あど、お札はねぐなったべし、小坊主は、そのうぢ、
「助けでけろ、和尚様、助けでけろ」
って一心不乱で逃げだど。
そして、逃げ帰ってきた小坊主を和尚様は、釣り鐘下げで中に入れで助けでやったんだど。

とーびんと。
山形弁訳
 むがし、むがしあったど。
彼岸が来て、綺麗な姉様寺参りさ来たっけど。
あんまり綺麗な姉様だもんだがら、寺の小坊主、ボーっとなって、姉様の下駄隠しだど。
帰りに姉様の下駄ねぇもんだがら、
「小坊っちゃ、私の下駄ねえなよ。後でお礼すっから、下駄探しておごやぇ」
って頼んだど。ほうして、
「私は、山奥のほうさ住んでだがら、栗が沢山なったら、お礼に栗食いに来とごぇ」
って言って帰って行ったど。
 秋がきて、綺麗な姉様のごど思い出して、行ぎだくなって、和尚様さ頼んだど。
 和尚様は、
変な姉様だったげんど、大丈夫だべがなぁ。
って思ったげんど、仕方ねぐ、
「有難い経文札三枚呉(け)っちぇやっから、困った時、危険な目さ遭った時、お札さ願いかげで頼めよ」
って、三枚のお札貰って山奥さ行ったど。
小坊主が姉様の家さ着ぐど洗濯しったけど。
「よぐ来とごやった、さぁさぁ上がっとごやぇ」
「丁度、栗のさかりだがら、洗濯終わるまで栗拾いしてきとごやぇ」
って言われ、裏山がら籠いっぱい拾ってきたど。
ほうして、煮だり、焼いだりして、栗いっぺごっつぉになったど。
「小坊っちゃ、日暮れできたがら、これがら戻んなは大変だべ。今夜は泊まっていったらいいんねが」
って言われで、座敷さ泊めでもらったど。
ほして、夜中に、パチパチって火の燃える音して、目覚めだど。
そしたら、姉様ぁ鬼になって火焚ぎしったっけど。
「栗いっぱい食った小坊主は、なんぼが、んめがんべなぁ」
ってブツブツ言ってだっけど。
  俺食われでしまう、逃げ出さんなね。
と思案したど。
「姉様、俺、雪隠(便所)さ行ってくる」
って言ったけど。
「ほんじゃ、腰さ綱付けで行げ」
長い綱付けらっちぇはぁ、雪隠さ行ったど。
そして考えだど。
雪隠の取っ手さ一枚のお札つけで、
「呼ばっちゃら、返事してけろな、頼む」
って言って逃げ出したど。
あんまり雪隠がら戻って来ねもんだがら、姉様、鬼の顔丸出しで、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
って聞いだど、お札は、
〈まだだぁ〉
って返事したっけど。
その間、小坊主ぁ一心不乱に逃げだど。
それがら又、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
〈まだだぁ〉
三回も四回も五回も呼んだげど、返事はすっけんども、さっぱり出でこねがったど。
おがしなぁど思って行ってみだらば、綱どお札しかねがった。
「小坊主に逃げらっちゃ、まだその辺さいだべ」
と、鬼ぁ小坊主どご追っかげだど。
鬼の足ぁ早いもんだがら、たぢまぢ追いつがっちぇ、取って食われっとごだったど。
和尚様がらもらった、有難い経文のお札又一枚出して、
「大っきい大っきい砂山になれ」
ってお札投げでやったど。
そしたら、大っきな、とんでもねぐ大っきな砂山出来だど。
鬼ぁ登っと、ズルズルズルズル崩っちぇ、ながなが(なかなか)登らんにぇがったど。
ほだげんど、鬼の足ぁ早いもんだがら、又追いついで、食われそうになったど。
もう一枚残ってだお札さ、願いこめで、
「大川になれー」
って叫んでお札投げでやったど。
堤のように大っきな川が流れ出したっけど。
又鬼ぁ、流されそうになっても、必死になって泳いできたげんども、流れが強くて、ながなが岸さ辿り着がんにぇんだど。
あど、お札はねぐなったべし、小坊主は、そのうぢ、
「助けでけろ、和尚様、助けでけろ」
って一心不乱で逃げだど。
そして、逃げ帰ってきた小坊主を和尚様は、釣り鐘下げで中に入れで助けでやったんだど。

とーびんと。

2005年08月01日

お月様とお日様と雷様

むがあし、むがあし、

  お月様とお天道様と雷様と三人で、旅さ出たんだど。

ほうして、ある宿屋さ泊まったんだそうだ。
  次の朝、雷様が目覚ましたら、空に雲が出ったたんだっけど。
雷様は女中よばって、聞いだっけど。
「なんだが雨降るみでだげど、お月様どお天道様は、何してござんなんべなぁ」
  女中はびっくりして、
「あの、お月様は今朝まだまだ暗いうぢに、宿をたってござったぜっし」
「お天道様は、夜明けど共に出がげなさったぜっし」
って言ったけど。
「お二人とも早いもんだなぁ、月日の経つのは早い、って昔がらいうもんだげど本当だなぁ」
って感心していだっけど。
ほうして、女中は雷様さ聞いだど。
「雷様雷様、雷様は何時にお立ちになんなやっし、もう夕方になんなだげど」
って言ったら、
「俺らぁ、夕立ちだぁ」
って言ったど。
おもしぇごど語るもんだなぁ。
とーびんと。
山形弁訳
  むかしむかし、
  お月様とお天道様と雷様と三人で旅に出たんだと。
そして、ある宿屋に泊まったそうな。
  次の朝、雷様が目覚ましたら、空に雲が出ていたんだと。
雷様は女中を呼んで、聞いたんだと。
「なんだか雨が降るみたいだけど、お月様とお天道様は、どうしてらっしゃるんだろうなぁ」
  女中はびっくりして、
「あの、お月様は今朝まだまだ暗いうちに、宿をたっていかれましたよ」
「お天道様は、夜明けと共にでかけなさいました」
って言ったんだと。
「お二人とも早いもんだなぁ、月日の経つのは早い、って昔からいうものだけど本当だなぁ」
って感心していたっけど。
そして、女中は雷様に聞いたんだと。
「雷様雷様、雷様はいつお立ちになられるんですか、もう夕方になるんですけど」
って言ったら、
「俺は、夕立ちだぁ」
って言ったんだと。
面白いこと言うもんだなぁ。
とーびんと。

2005年07月01日

『飴買い幽霊』

 ある茶店さ、白い着物きた若い女が一文持(た)がって、飴買いさくんなだど。

「こがえな若い女が一文持って、飴買いさ来るなて、おかしいなぁ、飴買いに来んなだず、おがしいもんだなぁ」
なて、じいさんは不思議に思っていだど。
 ほうして、今日も、次の日も、また、
「一文がな、呉(け)っでおくやい」
 また次の日も、
「一文がな、呉っでおくやい」
て、ほうして六日続げだが、
「はて、おがしいもんだな、何か、かいつぁどっから来んだかなぁ」
 そこで、じいさん、若い女の後追っかげで行って見たらば、
ずっと行ぐけぁ、お寺の裏の卵塔(墓)さ入って行ったど。
どさ行んかなと思ったらば、このあいだ荼毘あった新しい仏さまどこで、
すうっと居ねぐなった。そうしたらばよ、
「なぁ、今日で飴買う銭、ねぐなったぜばぁ、明日から買って食(か)せらんねしなぁ。ほに、困ったもんだなぁ、はぁて、むごさいごどなぁ」
て、泣き声すんなだずも。
「はてなぁ、奇態なもんだごでなぁ」
 じいさん、わらわら来て、村の庄屋さ来て、
「庄屋さま、庄屋さま、いや、昨夜、こういう訳で、毎日飴買いさ来んの居で、今日で六日目なもんだから、奇態なもんだと思って、おれ、卵塔まで追っかけで行ったらばよ、あの新しい荼毘塚がらよ、そういう声聞こえんなよ」
「ああ、ほだ、あそこはどこそこの家で、お産する間際の女死んだなだからな、んだげど、そいつぁ奇態なもんだ。掘ってみんなねべなぁ」
て、庄屋さんは役人さお話して、そこの新墓地を掘ってみだてよ。
 そうしたらば、中なら赤子の音、アンアンてする。
棺の蓋開げでみだらば、大きな男子生まっで居で、
アーンアーンていだっけ。
 んだから、大けな腹した女死んだ時など、気ぃ付けんなねもんだど。
死んでから子供生まれっとわりがら・・・。
どーびんと。
山形弁訳
 ある茶店に、白い着物をきた若い女が一文持って、飴を買いに来るんだと。
「こんなに若い女が、一文持って、飴買いに来るなんて、変だなぁ」

なんて、店のじいさんは不思議に思っていたんだと。
 そして、今日も、次の日も、また、
「一文分、下さい」
 また次の日も、
「一文分、下さい」
って、そうして六日続けたが、
「はて、おかしいものだなぁ。何か、こいつはどこから来るんだろうなぁ」
 そこで、じいさん、若い女の後を追いかけて行ってみたら、ずっと行って、お寺の裏の卵塔(墓)に入って行ったんだと。
どこに行くのかと思ったら、このあいだ荼毘あった新しい仏様のところで、すうっと居なくなった。そうしたらよ、
「なぁ、今日で飴買う銭、なくなったはぁ、明日から買って食べさせられないなぁ。本当に困ったものだなぁ、ああ、かわいそうなことだなぁ」
って泣き声するんだったと。
「はてなぁ、奇態なものだなぁ」
 じいさん、急いで戻ってきて、村の庄屋に行って、
「庄屋さま、庄屋さま、いや、昨夜、こういう訳で、毎日飴買いに来るのがいて、今日で六日目なものだから、奇態なものだと思って、おれ、卵塔まで追っかけて行ったら、あの新しい荼毘塚からよ、そういう声聞こえんのよ」
「ああ、そうだ、あそこはどこそこの家で、お産する間際の女死んだんだからな、だけど、そいつは奇態なものだ。掘ってみなくちゃならないだろうなぁ」
って、庄屋さんは役人にお話して、そこの新墓地を掘ってみたんだと。
 そうしたら、中から赤子の音、アンアンてする。
棺の蓋開けてみたら、大きな男子生まれていて、アーンアーンていたっけ。
 だから、大きな腹した女死んだときなんかは気をつけなくちゃならないものだと。
死んでから子供生まれるといけないから。
どーびんと。

2005年06月01日

『馬鹿婿と団子』

あるどこさな、ちいと足んね息子ぁ、ええ娘もらって

 三ツ目(結婚から三日目)に 来ておくやいなて言わっで、嫁と息子ぁ招ばっで行ったど。
「いや、婿どのござったから・・・」
なて、そごのおっかさ、一生懸命ご馳走拵(こしゃ)って、ほして団子ていうものご馳走したど。
「うまいもんだな、おっかさ、こいつ何ていうもんや」
「団子ていうもんだ」
 小豆まぜだり、黄粉混ぜだりして、その息子食ったごどね、名前もしゃねがったど。
「団子なぁ、団子なぁ」
 ほうして御馳走なって、嫁とおっかどこ置いて、自分一人帰ってきたけど。
「えがったなぁ、えがったなぁ」なて。
「いや、おっかよ。御馳走あったけ、御馳走あったけ」
「なに、そがえに御馳走あったけ」
「あいつよ、うまいがった。あいつよ、あいつよ」
 ほうして、囲炉裏端さ鉤さがってで─昔それで釜コわかしていだった─ その鉤おさえながら
「ほら、おっか、分んねべがなぁ、あいつだごで」
「何やぁ」
「あいつよ」
なて言う。おっかぁ分んね。
「ほに、分んねもんだなぁ」
 ほしたら、息子は鉤ぱっと放したずも。そうしたらば、鉤、こっちゃ引っ張ってだな放したもんだから、 向かい側さ坐ってたおっかの頭さ、ぺーんと当たったもんだ。
「いや、痛い、痛い。団子みたいな瘤出た」
て、おっか言うたず。
「いやいや、その団子だ、団子拵って呉ろ」
と言うたんだけど。
どーびんと。
山形弁訳
 あるところのな、少し足りない息子が、いい嫁をもらって、三つ目(結婚から三日目)に来てください、と言われて、嫁と息子が招かれて行ったんだと。
「いや、婿どの来てくださったから・・・」
て、そこのお母さんは、一生懸命ご馳走をこしらえて、そして、団子というものをご馳走したんだと。
「うまいものだな、お母さん、これはなんていうものだ」
「団子っていうものだ」
  小豆混ぜたり、黄粉混ぜたりして、その息子は食べたこともなければ、名前も知らなかったど。
「団子なぁ、団子なぁ」
  そしてご馳走になって、嫁とお母さんを置いて、自分一人だけ帰ってきたんだと。
「よかったなぁ、よかったなぁ」って。
「いや、お母さんよ。ご馳走あったんだよ、ご馳走あったんだよ。」
「なに、そんなにご馳走があったんだ」
「あれよ、うまかった。あれよ、あれ」
  そして、囲炉裏端に鉤がさがっていて、 -昔はそれで釜をわかしたりしていた- その鉤おさえながら、
「ほら、お母さん、分からないかなぁ、あれだよ」
「何」
「あれよ」
って言う。お母さんは分からない。
「本当に、分からないものだなぁ」
  そしたら、息子は鉤ぱっと放したんだと。そしたら、鉤、息子の方にひっぱっていたのを放したものだから、
向かいの側にすわっていた、お母さんの頭に、ぺーんと当たったんだと。
「いや、痛い、痛い。団子みたいな瘤出来た」
ってお母さん言ったど。
「いやいや、その団子だ、団子こしらえてくれ」
って言ったんだっけど。
どーびんと。

2005年05月02日

『金仏木仏』

庄屋さまでは、きれいな太った金仏拵(こしゃ)って、

 毎年お詣りしてはぁ、耳あけ(旧十二月九日大黒さんの祭り)だの、一年にニ、三べんくらいはお祭りして、拝もしったども。
 そごの家の若い衆、こんど庄屋さまの真似して、木で拵(こしゃ)って、そいづぁ信心者だがら、毎日ご飯上げで拝もしていだど。
 ある時、庄屋さまの家で、ドダン、バダン、ドダン、バダンて上段の方で音すんのだど。
「なんだべなぁ」
て、庄屋さま行ってみだらば、床の間で金仏と木仏で角力(すもう)とりしったけど。
「はぁ、よし、おら家のあんにゃば呼ばって来んなねなぁ」
奉公人のあんにゃ呼ばっちぇきて、
「これ、あんにゃ、来て見ろ。お前の木仏とおら家の金仏、角力しったがら、どっち勝づが、見ろ、まず」
なて、庄屋さま、自分の家んな、金仏勝づど思ってだもんだがら、勝づど思って自慢しっちゃくて、そのあんにゃどご呼ばってきて、二人で見でだったど。
 何度取っ組み合いしても、金仏はコロンコロンて、ひっ転ばさっちぇ、わがんねもんだずも。
そのうぢ、庄屋さま、ごしゃいで、
「何だ金仏。太って重だいくせに、そげな木仏に負げるなて、何だごんだ」
て、ごしゃいでしまったど。
ほうしたら、金仏は、
「庄屋さんよ、考えでみんだ。庄屋さんは一年に三べんぐらいしか御飯食(か)せで呉(け)ねべ。隣の木仏なの、毎日毎日ご馳走なってんなだぜ。んだがらとっても力持ちの木仏に、おれ負げんな、当たり前だごで」
って言うっけど。
庄屋さまは、なるほどんだごでなぁ・・・、
て反省したそうだ。
 ほだがらなぁ、金かげるばりが、ええごどでね。
 信心ていう心あっと、必ずごほうべん(神様のおかげで良いこと)があるもんだど。
どんびんと。
山形弁訳
 庄屋さまでは、きれいな太った金仏をこしらえて、毎年お詣りしては、大黒さまのお祭りとか、一年にニ、三べんくらいはお祭りして、拝み申していたんだと。
 そこの家の若い衆、こんど庄屋さまの真似して、木で仏さまをこしらえて、その若い衆は信心者だから、毎日、御飯あげて拝み申していましたと。
 ある時、庄屋さまの家で、ドタンバタンて、二階から音が聞こえてきたんだと。
「なんだろうなぁ」
て、庄屋さまが行ってみたら、床の間で金仏と木仏が角力(すもう)とりしてたんだと。
「はぁ、よし、我が家の兄さんを呼んでこなきゃならないなぁ」
奉公人の兄さん呼ばれてきて、
「これ兄さん、来て見ろ。お前の木仏と我が家の金仏、すもうしてるから、どっちが勝つか見ろ」
なて、庄屋さま自分の家の金仏が勝つと思っていたものだから、勝つと思って自慢したくって、その兄さんを呼んできて、二人で見てたんだと。
 何度取っ組み合いしても、金仏はコロンコロンって、ひっ転ばされて、駄目なんだったど。
そのうち、庄屋さまは怒って、
「何だ金仏。太って重たいくせに、そんな木仏に負けるなんて、何なんだ。」
て、怒ってしまったんだと。
そうしたら金仏は、
「庄屋さんよ、考えて見ろ。庄屋さんは一年に三べんぐらいしか御飯食べさせてくれないだろう。隣の木仏なんて、毎日毎日ご馳走になってるんだぞ。だから、とっても力持ちの木仏に、おれが負けるのは、当たり前だろう。」
って言うっけど。
庄屋さまは、なるほど、そうだよなぁ・・、
て、反省したそうだ。
 だからなぁ、お金をかけるばかりが、いいことではない。
信心ていう心があると、必ずごほうべんがあるもんだと。
どんびんと。

2005年04月11日

『部屋の起こり』

 いまは家の中さいっぺ部屋あってよ、

分かっちぇで、部屋、部屋て言うどれなぁ。
 むかしはガラーンとした大きなどごさ、筵下げだり、屏風立でだりして、みな暮らしていだっけど。
 あるどこの娘は、そこの家さムガサリ(花嫁)に行くごとになったど。
親ぁ心配して、
「いや、娘よ、お前はどうも屁ばり垂っちぇ、困ったもんだ。屁垂れっどぎは、人いねどこで、そっとたれるもんだぞ」
て、おっかがら教えらっじゃど。
 娘、嫁さ行って、ニ、三日したらば、青い顔して、だんだん食欲もねぐなって、
「はてなぁ、どこか悪れどこあんなんねべが、これこれ、嫁さん、嫁さん、どこか体悪れが」
「どこも悪れぐねっし」
「いや、実はよシ、おれ、屁たれんな我慢しったもんだから」
「屁なてでるもんだもの、そがえに我慢するもんでねごで。出もの腫もの所嫌わず、ていう諺あっから、屁などたっちぇもさしつかえねぇがら・・・」
「その屁もよ、おれの屁、他人ど違って、大きな屁たれるもんだからよっシ」
「大きな屁などたっじゃて、さしつかえないから、大きな屁たれろ」
「ほだべがっシ。ほんじゃなっシ、おれ屁たれっからなっシ、おどっつぁま、その大黒柱さぎっちりたぐづいておくやいなっシ、おっかさまはこっちの臼、おさえででおくやいなっシ。ええがんべが、たっで。みんなぎちっとおさえででおくやいなっシ」
 ほうして、嫁さんがちっとしゃがんでいたけずば、ボォーン、大きな屁たっで、いや、大黒柱も倒れっかどおもったけど。
「いやいや、せいせいした、おっかさん、やっと治ったず」
「屁我慢して、身体悪れぐされっと困っがら、この大っきな場所さ、壁でもつけで、おまえの屁屋(部屋)一つ拵って呉っこで」
て、拵ってもらったど。
これが部屋というものの始まりだったど。
どーびんと。
山形弁訳
今は家の中にたくさん部屋があって、分かれれて、部屋部屋って言うだろう。
 昔はガラーンとした大きなところに、筵下げたり、屏風立てたりして、みな暮らしてたんだと。
 あるところの娘が、花嫁に行くことになったんだと。
親は心配して、
「いや、娘よ、お前はどうも屁ばかりたれて、困ったものだ。屁たれるときは、人の居ないところで、そっと垂れるものだぞ」
と、お母さんに教えられたんだと。
 娘、嫁に行って、二・三日経ったら、青い顔して、だんだん食欲もなくなって、
「どうしたんだろう、どこか悪いところがあるんじゃないだろうか、これこれ、嫁さん、嫁さん、どこか身体の具合悪いのか」
「どこも悪くはないです」
「いや、実は、私、屁たれるのを我慢しているもんだから・・」
「屁なて出るものだもの、そんなに我慢するものではないぞ。出もの腫もの所嫌わず、っていう諺もあるぐらいだから、屁なんてたれても差し支えないから。」
「その屁もよ、私の屁、他人と違って、大きな屁なものだから」
「大きな屁なんてたれても、差し支えないから、大きな屁たれろ」
「そうですか。それではですね、私屁たれますお父様、その大黒柱にきつく縛りついてください。お母様はこっちの臼を押さえててください。いいですか、屁たれて。みんな、しっかり押さえててくださいね」
 そして、嫁さんがちょっとしゃがみこんでいたと思ったら、ボォーン、大黒柱も倒れるかと思うような、屁たれたんだと。
「いやいや、すっきりした、お母様。やっと治りました」
「屁我慢して、身体悪くされると困るから、この大きな場所に、壁でもつけて、おまえの屁屋(部屋)一つこしらえてあげるから」
と、こしらえてもらったのだと。
これが部屋というものの始まりだそうな。
どーびんと。

2005年03月01日

『猫が十二支に入らぬわけ』

「ネ・ウシ・トラ・ウ・・・・・て数えっけどよ、猫がねえべ。

なして入んねがったんべな」

 ちょうどお釈迦さま死んだどきよ、みんながお釈迦さまのお参り行がんなねべ。
ほして猫もねずみに行き会ったど。
「お釈迦さまのお参り、何日だべ」
 ほしたら、何時何時だどて、ねずみ、そのひにち教えだんだと。
「猫ど一緒に行ぐど、おら、おっかねし」
て、一日(ひして)遅ぐ教えだんだど、ねずみぁ。
 それから、猫ぁその次の日、一日遅っでお釈迦さまの涅槃のどごさ、わらわら行ってみだら、誰も来てねがったど。ほうしたらば門番が来て、
「なえだ、こりゃ猫、何しに来たごんだ」
なて。
「今日、あのお釈迦さまのお葬式で来たんだ」
て言うたば、
「お葬式なの、昨日終わったなだぜ」
「ねずみに、今日だって教えらっだ、ほに」
 それがら猫ぁごしゃえで、ねずみどこ、一生懸命とるようになったなだど。
それで十二支さ猫入らんねがった。ねずみに嘘語らっで・・・。
どーびんと。
山形弁訳
「ネ・ウシ・トラ・ウ・・・・・・って数えるけれども、猫はないだろ。なんで入らなかったんだろうな。」
ちょうどお釈迦さまが死んだときよ、みんながお釈迦さまのお参りに行かなきゃならないだろ。
そして猫もねずみに行き会ったと。
「お釈迦さまのお参り、何日だっけ。」
そうしたら、何時何時だって、ねずみ、その日にち教えたんだと。
「猫と一緒に行くと、おれ、怖いし。」
って一日遅く教えたんだと
 それから、猫は、その次の日、一日遅れてお釈迦さまの涅槃(ねはん)のところに、急いで行ってみたら、誰も来ていなかったんだと。そうしたら、門番が来て、
「なんだ、こりゃ猫、何しに来たんだ。」
って。
「今日、あのお釈迦さまのお葬式で来たんだ。」
って言ったら、
「お葬式なんて、昨日終わったんだぜ。」
「ねずみに、今日だって教えてもらったんだ。」
それから猫は、怒って、ねずみを、一生懸命とるようになったんだと。
それで十二支に猫は入れなかった。ねずみに嘘つかれて・・・。
どーびんと。

2005年02月17日

『蟻と蜂の拾いもの』

 むかしなぁ、蜂と蟻、散歩に行ったど。

 ずうっと行ったれば、道端さニシン一匹落ったけずも。
「あっ」て、わらわら蜂がいって、
「かいつぁ、おれの物だべした」
「なしてや、一緒に居たもの、分けて食せんなねべした」
なて言うたら、
「ほだげんど、むかしから<ニ・シ・ガ・ハチ>ていう、蜂のもんだべした」
して、蜂食ったなだげど。
 ほうして、向かう行ったらば、こんど、鯛一匹落っだんだけど。
ほうしたらわらわら行って、蟻コ、そいつぎちっと捕まえで、
「こいつぁ、おれのもんだ、おれのもんだ」
「何だ、おれ、ニシン食ったて、お前、こんな大きな鯛、一匹、お前ばりして、 取らんねべした」
「ほだて、むかしから言うべ、アリガタイ、アリガタイて、 鯛は蟻のもんだべした」
て、言うたけど。
どーびんと。
山形弁訳
むかしなぁ、蟻と蜂が散歩にいったんだと。
 ずうっと行ったら、道端にニシンが一匹落ちていたんだと。
「あっ」って急いで蜂がいって、
「こいつは、おれの物だ。」
「何でだ、一緒に居るんだから、分けて食べさせくれないと。」
なんて言ったら、
「でも、むかしから<ニ・シ・ガ・ハチ>っていう、蜂の物だろう。」
そして、蜂は食べたんだと。
 そして、向こうに行ったら、今度は、鯛が一匹落ちていたんだと。
 そしたら急いで蟻が行って、蟻コが鯛をぎちっと捕まえて、
「こいつは、おれの物だ、おれの物だ。」
「何だ、おれ、ニシン食べたって、お前、こんな大きな鯛、一匹、お前だけで取ったらだめだろう。」
「でも、むかしから言うだろ、アリガタイ、アリガタイて、鯛は蟻の物だ。」
て言ったんだと。
どーびんと。

2005年02月06日

『金の斧・鉄の斧』

 ある沼のほとりに、気持のええじんつぁと、ちいと意地の悪いじんつぁとあったど。

 毎日、今みたい鋸なていうええもの無いがったもの、斧ていうの持って行って、柴ばチョキン、チョキンと切って、焚物とりしたもんだけど。
 ほうして、気持ちのええじんつぁが沼のほとりで一生けんめい焚物切りしったら、手放れして、斧、ジャボンと沼さ落としてしまったんだど。
つるつる、つるつると深いどさ落として、
「こりゃ困った。明日から仕事さんねくて、御飯食んねぐなってくんべし・・・」なて、
「どうか沼の主さま。おれどこ助けっべと思って、斧とっておくやんねべか」
て、一生けんめい願ったど。そうしたれば、沼の中から、きれいな姉さま、
きれいな金で拵(こしゃ)った斧持って、
「じいさん、じいさん、お前落とした斧、これが」
「いやいや、とんでもない。そんげな斧、きれいなもんでない。
錆びてはいねげんども、鉄の黒い斧だっシ」
「お前、ずいぶん正直だな。ほじゃなぁ、鉄の斧とって来て呉っから、待っじぇろよ」
 ほして、姉さ、水の中さ、スパーッと入って、ほして、
「これが」て、鉄の斧持ってきて呉で、
「そいつだっシ、そいつに間違いないっシ。どうもおしょうしな、おしょうしな」
「いや、お前はまず正直者だから、金の斧も呉でやっから、大事にしておげよ」
なて、金の斧ももらって、焚物拾って家さ帰って来たけずも。
 隣のじんつぁ、遊びに来て、
「今日の山のあんばい、なじょだっけ」
「ううん、ええあんばいであったけぜ。おれ、沼のほとりで今日の仕事終わしてきたどこだ」
「なえだ、お前、そこさ飾ってだ斧、金の斧でないが。
なじょしたもんだ、こげなきれいな斧」
「あのなぁ、沼のほとりで木伐っていたもんだら、手放して、ちょろっと手から抜けで、斧ぁ沼の中さ入っていったもんだから、まず、沼の神さま、主さまさお願いして、かいつ拾ってもらったのよっシ。ほうして一番最初拾ったな、この金の斧だげんども、こいつ、おれでないて言うたらば、また鉄の斧拾っておぐやったんだけシ」
「やぁ、お前も随分欲のないじじいなもんだな。これ、ほだほだて、二つも三つももらってくればよかったのよ。そんじゃ、おれもこれから行って焚物切って、ええ斧もらってくんなね」
 沼のほとりで、ジョキン、ジョキンと切って、手っぱづれしない斧を、
やあうど(わざと)沼の中さスポーンと放り込んでしまって、
「神さま、神さま、沼のお主さま、おれの斧拾っておくやいシ」て頼んだずも。
「ああ、じさま、斧落としたのか、なんぼか困ったもんだべ、この斧か」
て言うたずま、黒い斧持して呉で。
「ほんね、ほんね、おれ、そげな汚い斧でないシ。おれな、きれいな金の斧だシ」
「はぁ、ほだか。お前みたいな気持ちの悪いのさは、この斧も呉らんね。中さおれ持って行んから。お前さ」
て、すうっと神さま、沼の中さ入って行って、とうとう自分の斧ももらわねで帰って来たど。
 ほだから、人の真似したり、悪れ根性など起こすもんでないけど。
神さま、すっかりみてやるもんだから。
どんびん。
山形弁訳
  ある沼のほとりに、気持ちのいいじいさまと少し意地の悪いじいさまがいました。
 毎日、今みたいに鋸なていういい物なかったから、斧っていうものもって行って柴をチョキン、チョキンときって、焚物取りしてたもんだと。
 そして、気持ちのいいじいさまが沼のほとりで一生けんめい焚物とりしてたら、手放れして、斧、ジャボンと沼に落としてしまったんだと。
つるつる、つるつると深いところに落として、
「こりゃ困った。明日から仕事ができなくて、御飯食べれなくなってくるだろうし・・・。」
って、
「どうか沼の主さま。おれを助けると思って、斧をとってくださらないでしょうか。」
って一生けんめい願ったど。そうしたら、沼の中から、きれいな姉さま、きれいな金で拵(こしら)えた斧持って、
「じいさん、じいさん、お前落とした斧、これか」
「いやいや、とんでもない。そんな斧、きれいなものでない。錆びてはいないけれど、鉄の黒い斧です。」
「お前、ずいぶん正直だな。それじゃあ、鉄の斧とってきてあげるから、待ってろよ。」
 そして、姉さん、水の中にスパーッと入って、そして、
「これか」って鉄の斧持ってきてくれて、
「それです。それに間違いないです。どうもありがとう、ありがとう。」
「いや、お前はまず正直者だから、金の斧もくれてやるから、大事にしておけよ。」
なんて、金の斧ももらって、焚物拾って家に帰ってきたんだど。
 隣のじいさま、遊びに来て、
「今日の山のあんばい、どうだった。」
「ううん、いいあんばいであったけぜ。おれ、沼のほとりで今日の仕事終わらしてきたところだ」
「なんだ、お前、そこに飾ってある斧、金の斧じゃあないか。どうしたんだ、こんなきれいな斧。」
「あのなぁ、沼のほとりで木伐っていたら、手放れして、ちょろっと手から抜けて、斧が沼の中に入っていったものだから、まず、沼の神さま、主さまにお願いして、こいつを拾ってもらったのよな。そして、一番最初に拾ったのは、この斧なんだけれど、これは、おれの物でないって言ったら、また鉄の斧拾ってくださったんだっけ。」
「やぁ、お前も随分欲のないじじいなもんだな。これ、そうだそうだって、二つも三つももらってくればよかったのに。それじゃあ、おれもこれから行って焚物切って、いい斧もらってこなきゃな。」
 沼のほとりで、ジョキン、ジョキンと切って、手っぱづれしない斧を、わざと放り込んでしまって、
「神さま、神さま、沼のお主さま、おれの斧拾ってください。」
って頼んだんだと。
「ああ、じいさま、斧落としたのか、なんぼか困ったものだろう、この斧か。」
って言って、黒い斧持ってきてくれた。
「違う、違う、おれ、そんな汚い斧でないです。おれの斧、きれいな金の斧です。」
「はぁ、そうか。お前みたいな気持ちのわるいのには、この斧もあげられない。中におれ持っていくから。お前さは。」
って、すうっと神さま、沼の中に入って行って、とうとう自分の斧ももらわないで帰ってきたど。
 だから、人の真似したり、悪い根性なんか起こすものじゃないんだと。
神さま、すっかりみておられるもんだから。
どんぴんと。

2005年01月31日

『蛙の恩返し』

 むがぁしむがしよ、ある村の若衆が、
「はて、田ンぼさ行ってみっかな」なて、鎌一つ持って、ずうっと田ンぼさ行ったずも。

ほうしたら、ある岡に、蛇ぁ蛙くわえで、いまにも呑むどこであったでずも。
「いや、蛇よ、蛇よ、何でも獲って食うのは仕方ねげどもよ、いや、 おれ見つけだ以上はぁ、蛙にも親いっどか、子いっどかて、いろいろあんべがらよ、まず、おれ見つけだなだから、我慢して放して呉(け)ねが」
どかて、蛇さたのんだど。
 ほうしたら、蛇はうらめしいようにして、若衆の顔見っだけぁ、
「エッ、エッ、エッ」て、蛙どこ吐き出して、草やぶさ、ぐうっと入って行ったずも。
「いや、おしょうしな、蛇さん。蛙よ、お前も、こんなどさ来てっど、また蛇ぁ出てくっどわりがら、早く、お前の住家さ帰っていげはぁ」
たば、川の中さ、ビタランビタランと入って行ったけど。
 ほうして一日稼いで若衆ぁ家さ帰って行った。
ほして、晩方んなったば、トントン、トントンて戸叩ぐ。
「こんばんわ、こんばんわ」なて。
「はてな、おら家さなの、めったな女、用あってくるわけねえげんどもな」
なて、して、戸開けて見だらば、きれいな女立っていだけずも。
「あの、おれ、旅の者だげんど、おれどこおかたにしてもらわんねべか」
「いや、おれ、おかた欲しくてはいだげんど、おれのおかたなて、 ほんに、なて呉んなだべが」
「いや、どうか、おれも一人者だから、おかたにしておぐやい」て頼んだど。
「ほんじゃ、おかたになっどええごで」て。
 ほうしておかたになって、一生懸命稼ぐこどだけど。しばらくおもったらば、
「あの、お兄さんよ、おれ、ちょっと家さ行って法事して来んなねもんだから、 暇呉っじぇおくやい」
「おかしいもんだな。一人身だなて来たなだげんど、家さ行って法事するなて、おかしいごと語る・・・。んだごでなぁ、何かあんべちゃな、ほんじゃ行って来んだ」
 ほうして出て行ったて。
「ほんなおがしいな、ようし、おれぁ跡つげてって、調べて見っか」
 ほして、姉さまの跡、若衆ぁついて行ったずも。
 ずうっと行ったらば、お寺の脇道通って、お寺のうしろの沢の方まで行った。そこさ池あっけど、ほうして行ったらば、姉さまの体見えねぐなってしまったんだど。
池の端立ってみっだらば、池のふぢさ蛙があっちこっち浮いできて、 ガエロガエロ、ガエロガエロて鳴いっだけずも。
 そのうち、合図のようにして、水の中からぐるりから蛙はいっぱい出はってきて、中の大きな蓮の葉っぱの上さなど大きな十匹ばり整っていたけずも。
 ほしてゲロゲロ、ゲロゲロ、いや、やかましいほど鳴きはじめたけずも。
「いや、やがましいごとなぁ」なて、石拾って池の中さドブンと打投げだずも。
ほうしたらば、蛙はピターッと鳴くのを止めて、
池の中さスパーッとみな入って行ってしまった。
 それから若衆、わらわら家かえってきていだらば、晩方になって、姉さま帰って来たけど。「ただいま」なて。
 ほうしたれば、頭さ包帯などしてんなだど。「なえだて、おかしぇもんだな。
何か途中で痛くでもしたべか、何したごんだ」
「いや、申し訳ないげんど、おれは、おれの本当の本性見らって、お前のおかたになってだげんども、今日、家さ帰って法事しったどこさ、お前に来らっで、石投げらっじゃもんだから、まず、本性みらっじゃもんだから、おかたになっていらんねもんだからよ、こんでお別れだ」
て、ほうして蛙の姿になって、ビダラ、ビダラて帰ってしまったけどはぁ。
蛙だても、人でも、忘せねで、恩返しするもんだから、人間なんて、小いとのごんでも、大きくして返すもんだけど。
どんびんと。
山形弁訳
むかしむかし、ある村の若者が、
「はて、田んぼに行っこうかな」なんて、鎌一つ持って、ずうっと田んぼに行ったんだと。
そしたら、ある岡に、蛇が蛙をくわえて、いまにも呑み込むところだったんだと。
「いや、蛇よ、蛇よ、何でも獲って食うのは仕方ないけれども、いや、おれが見つけた以上は、蛙にも親がいるとか、子供がいるとかっていろいろあるだろうから、まず、おれ見つけたんだから、我慢して放してもらえないだろうか。」などて、蛇に頼んだのだと。
 そしたら、蛇はうらめしいようにして、若者の顔を見て、「エッ、エッ、エッ」て、蛙を吐き出して、草やぶに、ぐぅっと入って行ったんだと。
「いや、ありがとう、蛇さん。蛙よ、お前も、こんなところに来てると、また蛇が出てくると困るだろうから、早く、お前の住家に帰っていけ。」
って言ったら、川の中に、ビタランビタランと入って行ったと。
 そして、一日稼いで若者は家に帰っていった。そして、晩方になったら、トントントントンて戸叩く。
「こんばんわ、こんばんわ」なんて。
「はてな、おら家になんて、めったな女、用あってくるはずないんだけどなぁ。」
なんて、そして、戸開けてみたら、きれいな女立っていたんだと。
「あの、わたし、旅の者だけど、わたしを嫁にしてもらえないでしょうか。」
「いや、おれ、嫁欲しいと思ってはいたんだけど、おれの嫁なんて、本当になってもらえるのか。」
「いや、どうか、わたしも一人者だから、嫁にしてください。」って頼んだんだと。
「それじゃあ、嫁になればいい。」って。
 そして、嫁になって一生懸命働くもんだっけど。しばらくしたら、
「あの、お兄さん、わたし、ちょっと家に行って法事をしてこなきゃならないものだから、休みをもらえないでしょうか。」
「おかしなものだな。一人身だなんてきたのに家に行って法事するなんて、おかしいことを言う・・・。そうだよなぁ、何かあるんだよな、それじゃあ行って来なさい。」
 そして、出ていったど。
「何かおかしいなぁ、ようし、おれぁ、跡つけて行って、調べてみるか。」
 そして、姉さまの跡、若者はついて行ったんど。
 ずうっと行ったら、お寺の脇道通って、お寺のうしろの沢の方まで行った。そこに池があって、そして行ってみたら、姉さまの体が見えなくなってしまったんだと。
池の淵に立ってみてたら、池の淵に蛙があちこちから浮かんできて、ガエロガエロガエロガエロて鳴き始めたんだと。
 そのうち、合図のようにして、水の中からまわりから蛙がいっぱいでてきて、中の大きな蓮の葉っぱの上になんて大きな十匹ばかりが並んでいたんだと。
 そして、ゲロゲロゲロゲロ、いや、やかましいほど鳴きはじめだんだと。
「いや、やかましいもんだなぁ」
なんて、石拾って、池の中にドブンと打ち投げたんだと。
そしたら、蛙はピターッと鳴くのを止めて、
池の中にスパーッとみな入って行ってしまった。
 それから、若者は、急いで家に帰ってきてたら、晩方になって、姉さま帰ってきたっけど。
「ただいま。」って。
 そしたら、頭に包帯などしてるんだど。
「なんだって、おかしなもんだなぁ。何か途中で痛くでもしたんだろうか、どうしたんだ。」
「いや、申し訳ないけれど、わたしは、わたしの本当の本性見られて、今までお前の嫁になっていたんだけれども、今日、家に帰って法事をしているところに、お前が来て、石投げられたものだから、まず、本性見られたものだから、もう嫁になっていれなくなった、これでお別れだ。」
って、そうして蛙の姿になって、ビタラビタラって帰ってしまったんだっけど。
蛙でも、人でも、忘れないで恩返しするものだから、人間なんて小さいことでも、大きくして返すもんだっけど。
どんびんと。

2005年01月23日

『大鳥と大海老と大鯨』

 いや、大きな鳳凰の鳥(こうのとり)ざぁ、大きな鳥で、羽根ひろげっど、

片方の羽根さ、山も二つもかかるほどの大きな鳥だったけど、ほうして日本国中、ずぅっと飛んできて、海の中さ大きな枯れ木のようなもの二本出っだもんだがら、そごさ止まって、
「いや、日本中旅してみだが、随分広いもんだ。随分広いげんども、おれぐらい大きいもの、世の中にいねな、こりゃ。おれは何ったて、世の中で一番大きいなぁ、こりゃ。」
なて、自慢にしったけど。
「こりゃ、ひとの髭さたぐついでんの、誰だ」
なて、大きい音すんのだど。
「何だなて、お前こそ何者だ」
「おれが、おれは今、海の中に居っげんども、海老だ。ひとの髭さ止まって、何だ。大きいどがて、おれくらい大きい者いねぇぞ。おれは大海老だ」
なて威張る。
「いやいや、海老の髭ざぁ、こがえに太いもんだがい、おれより大きい者いねななて、こんな髭見たばりで、おれぁ魂消だ」
なて、わらわら大鳥飛んで行ってしまった。
こんどぁ海老ぁ、
「いやいや、鳳凰鳥ぁ大きいなて自慢しったけぁ、逃げで行ったな、こりゃ」
 海老ぁじゃーって泳いで、ずうっと日本国中廻って歩いったらば、
「あんまり騒ぎすぎだ。くたびっじゃなぁ」
 大きな海の中の洞穴みだいなどごさ、ちょっと入って、
「ひと休みすっかぁ、まず、おれも日本国中騒いでみだげんども、おれくらい大きな者は居ねもんだなぁ、こりゃ。鳳凰鳥ぁ逃げて行ったし、おれ、何したて一番者だ」
「誰だ、そごで、おれぐらい大きな者いねなて、威張ってんな、おれの鼻の孔の中、もそもそて、ウウン、ハクション」
て、吹っ飛ばさっじゃど。そうしたらば海老ぁ、伊勢の方まで吹っ飛んできて、腰びーんとぶっつげて、それがら海老ぁ、腰曲がったど。ほうしたらば、
何者だが、
「おれぁ、世の中見で、海老大きいなて、鳳凰鳥大きいなて、おれくらい大きな者居ね、おれは鯨っていう者だ」
 ほうして日本もあんまり小っちゃこくて、傍さいらんねくて、南の海、北の海までずうっと鯨が騒いで、いんなだど。
どーびんと。
山形弁訳
 いや、大きな鳳凰の鳥(こうのとり)っていうのは、大きな鳥で、羽根を広げると、片方の羽根に、山が二つもかかるほどの大きな鳥だった、そうして日本国中、ずうっと飛んできて、海の中に大きな枯れ木のようなものが二本でてたものだから、そこに止まって、
「いや、日本中旅してみたが、随分広いものだ。随分広いけれども、おれくらい大きいもの、世の中にいないなぁ、こりゃ。おれは何たって、世の中で一番大きいなあ、こりゃ。」
なんて自慢にしてたど。
「こりゃ、ひとの髭にくっついてるの、誰だ。」
って大きい音するんだと。
「何だなんて、お前こそ何者だ。」
「おれが、おれは今、海の中に居るけれども、海老だ。ひとの髭に止まって、なんだ。大きいなんて、おれくらい大きい者いないぞ。おれは大海老だ。」
なんて威張る。
「いやいや、海老の髭って言うものは、こんなに太いものなのか、おれより大きい者いないなんて、こんな髭みたら、おれは魂消えた。」
って、わらわら大鳥飛んで行ってしまった。
こんどは海老ぁ、
「いやいや、鳳凰鳥は大きいなんて自慢してけど、逃げて行ったな、こりゃ。」
 海老はじゃーって泳いで、ずうっと日本国中廻って歩いたてら、
「あんまり騒ぎすぎた。疲れたなぁ。」
 大きな海の中の洞穴みたいなところに、ちょっと入って、
「ひと休みするかなぁ、まず、おれも日本国中騒いで見たけれども、おれくらい大きなものは居ないものだなぁ、こりゃ。鳳凰鳥は逃げて行ったし、おれ、何しても一番者だ。」
「誰だ、そこで、おれくらい大きな者いないなんて、威張ってるのは、おれの鼻の孔の中、もそもそって、ウウン、ハクション。」
って吹き飛ばされたんど。そうしたら、海老は、伊勢の方まで吹っ飛んできて、腰をびーんとぶつけて、それから海老は、腰が曲がったんだと。そうしたらば、何者か、
「おれは、世の中見て、海老大きいなんて、鳳凰鳥大きいなんて、おれくらい大きいものはいない、おれは鯨という者だ。」
 そうして、日本もあまりに小さくて、そばにいれなくて、南の海、北の海までずうっと鯨が騒いでいるのだと。
どーびんと。

2005年01月19日

『百足の医者迎え』

 虫の仲間で、一匹の虫が病気になった。

「はて、医者、わらわら呼ばって来んなねべ。こがえに急に病気になったらば、大変だべ」
「はて、誰、医者迎えに行って来んべ。お前は・・・」
「おれ、わかんね。半分飛ぶげども、半分しか飛ばんねし」
「いや、おれぁ、ピョンピョンて跳ねっけんど、横ちょの方さばり飛んでんから わかんねし・・・」
なて、何かかにか難癖つけて、行ぐという者いねがったけど。
「んだら、あの、百足ええでないが。百足は足いっぱいあっから、何したて、 一番早いべ、歩くごとは」
「ほだなぁ、ほんじゃ、百足さ頼んでくっか」なて、
「あの、百足よ、今急病で困ってっから、お前、一走り、医者呼ばて来て呉ねが」
なて、百足さ頼んだごんだど。
「ほだが」
百足は「やんだ」ても言わねで、「ほんじゃ、おれ行って来(く)っこで」
 ほうして、こっちは「苦しい、苦しい」なて・・・、うなって苦しがって居たど。
「何だて、百足は帰って来ねもんだなぁ。何しったんだべ。医者でも居ねなだべが」
て、心配していだけ。
「はて、百足、まだ帰って来ね。なじょしったべぁ、行ってみてくる」
 百足居たどさ、行って見たど。ほうしたれば、百足、まだ居たけずも。
「百足、何しったごんだ。あんなに、早く行ってきて呉ろて頼んだじば」
「いや、おれ、ワラジ履きしったでこ。おれぁ、いっぱいワラジ履がんなねもんだからよ、 出だすにゃ、遅くて、わかんねなだ」
 それから、<百足の医者呼ばり>て、なんぼ足なのいっぱいあったて、
何かかにか欠点あるもんだずがら、この人こうだ、なてばりいわねもんだど。
どーびんと。
山形弁訳
 虫の仲間で、一匹の虫が病気になった。
「はて、医者を急いで呼んでこなきゃならいな。こんなに急に病気になったら大変だろう。」
「はて、誰が医者を迎えに行ったらいいかなぁ・お前は・・・」
「おれは無理だ。ピョンピョンて跳ねるけれども、横の方にばっかり飛んでくから駄目だし・・・」
なんて、何かかにかに難癖つけて、行くって言う者がいなかったんだと。
「だったら、あの、百足がいいんじゃないか。百足は足がいっぱいあるから、何しても一番早いだろう、歩くことは。」
「そうだなあ、それじゃあ、百足に頼んでこようか」
って、
「あの、百足よ、今急病が出て困ってるから、お前、一走り、医者を呼んできてもらえないか。」
なんて、百足に頼んだんだと。
「わかった」
百足は「嫌だ」とも言わずに「それじゃあ、おれ行ってくるよ。」
 そして、こっちでは「苦しい苦しい」って唸って苦しがっていたど。
「何だって、百足は帰ってこないもんだなぁ。何をしてるんだろう。医者が見つからないんだろうか。」
て、心配していたんだと。
「はて、百足、まだ帰ってこない。なにをしてるんだろう、行ってみてくる。」
 百足の居るところに行ってみだんだと。そしたら、百足はまだ百足は居たんだと。
「百足、何してんだ。あんなに、早く行ってきてくれって頼んだのに。」
「いや、おれ、ワラジを履いてるんだ。おれぁ、いっぱいワラジ履かなきゃならないもんだから、出だすのは遅くて駄目なんだ。」
 それから<百足の医者呼ばり>っていって、どんなに足がいっぱいあっても、何かかにか欠点があるもんだから、この人こうだ、なんてばかり言えないもんだと。
どーびんと。

2005年01月18日

『雪女郎』

 吹雪で吹雪で、目もあてらんね吹雪の晩であったど。

 ある一軒の家さ、
「こんばんわ、こんばんわ、あの、旅の女だげんど、今晩一晩泊めていただけねべか」
 その家の親父、開けてみたらば、若い女立っていだけずも、ほうして見っど、顔付きあんまり赤味もさしていね、若い元気のねえ女だっけど。
「ああ、泊めだて、これ費用にもなんねな」
 その家の親父は欲深くて、
「あのな、せっかくだげんど、おら家(え)に病人いるもんだから、泊めらんねなよ」なて、
「ほだったべか」
「あの、隣の家さ行って頼んでみてごんざぇ」
なて言うもんだから、こんど隣の家さ、とことこ、とことこ行って、
ちょぇっと離っだ家さ行って、
「こんばんわ、こんばんわ」
「はいはい」
なて、じさま出て来たけずも。
「あの、旅のもんだげんど、今晩一晩泊めていただがんねべが」
「いやいや、こんな吹くに、お前一人で大変であったべ。
まずまず雪入んねばりもえがんべがら、おら家(え)さ泊まってごんざぇ」
 こころええぐ、そのじんつぁ泊めで呉っじゃけずも。ばんつぁもいでなぁ、
「食うもの、みな食って、食い終わってはぁ、何もねえげんどもよ、
ちいと温まって休むどええごで」
娘は
「おしょうしな」
ていいながら、ありがたいんだか、ポタポタて涙流しながら、喜んでいたけずも。
「ほんじゃまず、布団さ入って休んで呉ろはぁ、まず」
なて、家さ入っで貰っただけでも、えがったもんだから、娘は床の中さ入って寝たずも。
 次の日になったらば、じいさん、ばあさん起きてみだらば、いや、吹雪はピタリと止んでよ、青空も出てきて、
「今日はええ天気になンな、こりゃ。旅する娘、今日はお天気ええくて、 なんぼ喜んで行くべぁ、こりゃ。娘さんよ、まず起きやい。御飯も出っどこだし、起きやい。起きておくやい」
て言ったげんども、返事もしない。
「はて、奇態なもんだな、こりゃ」
なていだらば、布団、ぽこっとなっていっけんども、大きい音で呼ばっけんども、返事しね。
「悪れげんどもなぁ」
て、ひょいっとめくってみたら、娘いないし、寝た布団が、クチャクチャ濡っでだばりで、娘いねもんだけど、そいつが雪女郎ていうもんでな。
 それから、隣の泊めて呉ね家では、貧乏になって、かっちゃまえになってはぁ、その家では親父は病気になるはぁ、その家はずっと病人絶えねでしまって、こっちの、泊めで呉っじゃ家のじんつぁとばんちゃは、安泰に夫婦して福しくなって、ええあんばいに暮らしたけど。
ほして、雪女郎ているのは、あっちこっち廻って、人の気持ちを試して歩くもんだけど。
どんびんと。
山形弁訳
 吹雪で吹雪で、目もあてられない吹雪の晩でありました。
 ある一軒の家に、
「こんばんわ、こんばんわ、あの、旅の女ですが、今晩一晩泊めていただけないでしょうか。」
  その家の親父、戸開けてみたら、若い女が立っていたんだと。そうしてよく見ると、顔付き、あまり、赤みもさしていない、若い元気のない女だったど。
「ああ、泊めても、これはお金にならないな。」
 その家の親父は欲深くて、
「あのな、せっかくだけれど、我が家に病人いるものだから、泊められないのよ。」
なんて、
「そうでしたか。」
「あの、隣の家に行って頼んでみてください。」
って言うもんだから、今度は隣の家に、とことこ、とことこ行って、ちょっと離れた家にいって、
「こんばんわ、こんばんわ。」
「はいはい。」
なんて、じいさま出てきたんだと。
「あの、旅の者ですけど、今晩一晩泊めていただけないでしょうか。」
「いやいや、こんな吹雪くのに、お前一人で大変だったろう。まずまず、雪が入らないだけでもいいだろうから、我が家に泊まっていってください。」
 こころよく、そのじいさまは泊めてくれたんだと。ばあさまも居て、
「食うもの、みな食って、食い終わってはぁ、何もないけれども、ちょっと温まって休むといい。」
娘は、
「ありがとう。」
っていいながら、ありがたいんだか、ポタポタって涙流しながら、喜んでいたんだと。
「それじゃぁまず、布団に入って休んでください、まず。」
って、家に入れてもらっただけでも良かったものだから、娘は床の中に入って寝たんだと。
 次の日になって、じいさま、ばあさま起きてみたら、いや、吹雪はピタリと止んでて、青空も出てきて、
「今日はいい天気になるな、こりゃ。旅する娘、今日はお天気良くて、どれだけ喜んでいくだろう、こりゃ。娘さんよ、まず、起きなさい。御飯もできてることだし、起きなさい。起きてください。」
って言ったけれども、返事もない。
「はて、奇態なものだな、こりゃ。」
っていたら、布団、ぽこっとなってるんだけれども、大きい音で呼んでも、返事がない。
「悪いけれども。」
って、ひょいっとめくってみたら、娘いないし、寝た布団が、クチャクチャ濡れてるばかりで、娘はいなかったんだと、そいつが雪女郎っていうものでな。
 それから、隣の泊めてあげなかった家では、貧乏になって、逆になって、その家では親父は病気になるし、その家はずっと病人が絶えないでしまって、こっちの、泊めてあげた家のじいさまとばあさまは、安泰に夫婦で豊かになって、いいあんばいに暮らしましたと。
そして、雪女郎っていうのは、あっちこっち廻って、人の気持ちを試して歩くもんだと。
どんびんと。

2005年01月18日

牛蒡と人参と大根で、ある日、旅さ行ったんど。

んで、あるどごさ泊まって、宿の爺さんが、
「風呂さ入っておくやい」
っていうもんだがら、お前入って来い、そなた入って来いて、
「まず、人参、先入って来い」
「ほだが」
なて、人参、先一番に行ったけずも。ほうして、風呂さ行って、
なかなか熱いげんど、水、どっから汲んで埋めるもんだが水
さっぱり見当だんねし、大きい音立てて聞いてるのもと思って、
人参は熱いのを我慢して、じゃぶっと入ってはぁ、
わらわら上がって来た。
「いやいやええ湯だった、まず。次は牛蒡入って来い、まず」
 牛蒡、
「ほだが、おれ先入ってくんべ。大根、おれ先に入ってくんぞはぁ」
 ほして牛蒡は風呂場さ行って、風呂さ入ったど思ったらば、
いや、熱くて入らんにぇ。
「いや、人参、入んねで、ちとあちこち拭いできて、
赤くなってきたんだな、こりゃ」
 ほうして、牛蒡、入りもしねで、そのまま帰って来て、
「いや、ええお湯だった、ええお湯だった。大根入って来い」
「ほだが、ほんじゃ、おれ最後に入れでもらうがはぁ」
なて大根入りに行った。
 ほうして行ったらば、煮立つみでに熱いお湯だったもんだがら、
「ははぁ、こりゃ、人参も牛蒡も入ったふりして、
さっぱり入んねがったな。はて、風呂釜近くだもの、
探せば水あんべした」
て、ちょうど戸開けて見だれば、ちっちゃこい川流っでだ。
そっから水汲んできて、
ええ塩梅に埋めで、ゆっくり大根は入って、頭のてっぺんから足の先まで、
きれいに洗ってきたけど。
 ほだから、人参は熱いお湯さちょこっと入ったばりで赤ぐなって、
牛蒡は、入ったふりして入んねで、
大根はゆっくり入ったばきれいになったんど。
最初は牛蒡ど同じような色であったげんど、人参も大根も、
それがらそういう風に色が変わってきたんだど。
どーびんと。
山形弁訳  牛蒡と人参と大根で、ある日、旅に行ったんだと。んであるところに泊まって、宿のじいさんが、
「風呂に入ってください。」
っていうものだから、お前入って来い、そなた入って来いて、
「まず、人参、先入って来い。」
「わかった。」
なんて、人参、先一番に行ったんだと。そして、風呂に行って、なかなか熱いんだけど、水をどこから汲んできて埋めるものなのか、水がさっぱり見当たらないし、大きい音立てて聞いてるのもと思って、人参は熱いのを我慢してじゃぶっと入ってから、
急いで上がってきた。
「いやいや、いいお湯だった、まず。次は牛蒡入って来い。」
牛蒡、
「そうか、おれ先入って来る。大根、おれ先に入ってくるぞ。」
 そして牛蒡は風呂場に行って、風呂に入ったと思ったら、いや、熱くては入れない。
 「いや、人参、入らないで、ちょっとあちこち拭いてきて、赤くなってきたんだな、こりゃぁ」
 そして、牛蒡、入りもしないで、そのまま帰ってきて、
「いや、いいお湯だった、いいお湯だった。大根入って来い。」
「そうか、それじゃあ、おれ最後に入れてもらうかなぁ。」
なんて大根入りに行った。
 そして、行ってみたら、煮立つみたいに熱いお湯だったもんだから、
「ははぁ、こりゃ人参も牛蒡も入ったふりして、さっぱり入らなかったんだな。はて、風呂釜の近くなんだから、探せば水があるだろう。」
て、ちょうど戸開けてみたら、ちいさい川が流れてた。そこから水汲んできて、いい塩梅に埋めて、ゆっくり大根は入って、頭のてっぺんから足の先まで、きれいに洗ってきたんだと。
 だから、人参は熱いお湯にちょっと入っただけで赤くなって、牛蒡は、入ったふりして入らなくって、大根はゆっくり入ったからきれいになったんだと。
最初は牛蒡と同じような色だったのに、人参も大根も、それからそういうふうに色が変わってきたんだと。
どーびんと。