2005年01月31日

『蛙の恩返し』

 むがぁしむがしよ、ある村の若衆が、
「はて、田ンぼさ行ってみっかな」なて、鎌一つ持って、ずうっと田ンぼさ行ったずも。

ほうしたら、ある岡に、蛇ぁ蛙くわえで、いまにも呑むどこであったでずも。
「いや、蛇よ、蛇よ、何でも獲って食うのは仕方ねげどもよ、いや、 おれ見つけだ以上はぁ、蛙にも親いっどか、子いっどかて、いろいろあんべがらよ、まず、おれ見つけだなだから、我慢して放して呉(け)ねが」
どかて、蛇さたのんだど。
 ほうしたら、蛇はうらめしいようにして、若衆の顔見っだけぁ、
「エッ、エッ、エッ」て、蛙どこ吐き出して、草やぶさ、ぐうっと入って行ったずも。
「いや、おしょうしな、蛇さん。蛙よ、お前も、こんなどさ来てっど、また蛇ぁ出てくっどわりがら、早く、お前の住家さ帰っていげはぁ」
たば、川の中さ、ビタランビタランと入って行ったけど。
 ほうして一日稼いで若衆ぁ家さ帰って行った。
ほして、晩方んなったば、トントン、トントンて戸叩ぐ。
「こんばんわ、こんばんわ」なて。
「はてな、おら家さなの、めったな女、用あってくるわけねえげんどもな」
なて、して、戸開けて見だらば、きれいな女立っていだけずも。
「あの、おれ、旅の者だげんど、おれどこおかたにしてもらわんねべか」
「いや、おれ、おかた欲しくてはいだげんど、おれのおかたなて、 ほんに、なて呉んなだべが」
「いや、どうか、おれも一人者だから、おかたにしておぐやい」て頼んだど。
「ほんじゃ、おかたになっどええごで」て。
 ほうしておかたになって、一生懸命稼ぐこどだけど。しばらくおもったらば、
「あの、お兄さんよ、おれ、ちょっと家さ行って法事して来んなねもんだから、 暇呉っじぇおくやい」
「おかしいもんだな。一人身だなて来たなだげんど、家さ行って法事するなて、おかしいごと語る・・・。んだごでなぁ、何かあんべちゃな、ほんじゃ行って来んだ」
 ほうして出て行ったて。
「ほんなおがしいな、ようし、おれぁ跡つげてって、調べて見っか」
 ほして、姉さまの跡、若衆ぁついて行ったずも。
 ずうっと行ったらば、お寺の脇道通って、お寺のうしろの沢の方まで行った。そこさ池あっけど、ほうして行ったらば、姉さまの体見えねぐなってしまったんだど。
池の端立ってみっだらば、池のふぢさ蛙があっちこっち浮いできて、 ガエロガエロ、ガエロガエロて鳴いっだけずも。
 そのうち、合図のようにして、水の中からぐるりから蛙はいっぱい出はってきて、中の大きな蓮の葉っぱの上さなど大きな十匹ばり整っていたけずも。
 ほしてゲロゲロ、ゲロゲロ、いや、やかましいほど鳴きはじめたけずも。
「いや、やがましいごとなぁ」なて、石拾って池の中さドブンと打投げだずも。
ほうしたらば、蛙はピターッと鳴くのを止めて、
池の中さスパーッとみな入って行ってしまった。
 それから若衆、わらわら家かえってきていだらば、晩方になって、姉さま帰って来たけど。「ただいま」なて。
 ほうしたれば、頭さ包帯などしてんなだど。「なえだて、おかしぇもんだな。
何か途中で痛くでもしたべか、何したごんだ」
「いや、申し訳ないげんど、おれは、おれの本当の本性見らって、お前のおかたになってだげんども、今日、家さ帰って法事しったどこさ、お前に来らっで、石投げらっじゃもんだから、まず、本性みらっじゃもんだから、おかたになっていらんねもんだからよ、こんでお別れだ」
て、ほうして蛙の姿になって、ビダラ、ビダラて帰ってしまったけどはぁ。
蛙だても、人でも、忘せねで、恩返しするもんだから、人間なんて、小いとのごんでも、大きくして返すもんだけど。
どんびんと。
山形弁訳
むかしむかし、ある村の若者が、
「はて、田んぼに行っこうかな」なんて、鎌一つ持って、ずうっと田んぼに行ったんだと。
そしたら、ある岡に、蛇が蛙をくわえて、いまにも呑み込むところだったんだと。
「いや、蛇よ、蛇よ、何でも獲って食うのは仕方ないけれども、いや、おれが見つけた以上は、蛙にも親がいるとか、子供がいるとかっていろいろあるだろうから、まず、おれ見つけたんだから、我慢して放してもらえないだろうか。」などて、蛇に頼んだのだと。
 そしたら、蛇はうらめしいようにして、若者の顔を見て、「エッ、エッ、エッ」て、蛙を吐き出して、草やぶに、ぐぅっと入って行ったんだと。
「いや、ありがとう、蛇さん。蛙よ、お前も、こんなところに来てると、また蛇が出てくると困るだろうから、早く、お前の住家に帰っていけ。」
って言ったら、川の中に、ビタランビタランと入って行ったと。
 そして、一日稼いで若者は家に帰っていった。そして、晩方になったら、トントントントンて戸叩く。
「こんばんわ、こんばんわ」なんて。
「はてな、おら家になんて、めったな女、用あってくるはずないんだけどなぁ。」
なんて、そして、戸開けてみたら、きれいな女立っていたんだと。
「あの、わたし、旅の者だけど、わたしを嫁にしてもらえないでしょうか。」
「いや、おれ、嫁欲しいと思ってはいたんだけど、おれの嫁なんて、本当になってもらえるのか。」
「いや、どうか、わたしも一人者だから、嫁にしてください。」って頼んだんだと。
「それじゃあ、嫁になればいい。」って。
 そして、嫁になって一生懸命働くもんだっけど。しばらくしたら、
「あの、お兄さん、わたし、ちょっと家に行って法事をしてこなきゃならないものだから、休みをもらえないでしょうか。」
「おかしなものだな。一人身だなんてきたのに家に行って法事するなんて、おかしいことを言う・・・。そうだよなぁ、何かあるんだよな、それじゃあ行って来なさい。」
 そして、出ていったど。
「何かおかしいなぁ、ようし、おれぁ、跡つけて行って、調べてみるか。」
 そして、姉さまの跡、若者はついて行ったんど。
 ずうっと行ったら、お寺の脇道通って、お寺のうしろの沢の方まで行った。そこに池があって、そして行ってみたら、姉さまの体が見えなくなってしまったんだと。
池の淵に立ってみてたら、池の淵に蛙があちこちから浮かんできて、ガエロガエロガエロガエロて鳴き始めたんだと。
 そのうち、合図のようにして、水の中からまわりから蛙がいっぱいでてきて、中の大きな蓮の葉っぱの上になんて大きな十匹ばかりが並んでいたんだと。
 そして、ゲロゲロゲロゲロ、いや、やかましいほど鳴きはじめだんだと。
「いや、やかましいもんだなぁ」
なんて、石拾って、池の中にドブンと打ち投げたんだと。
そしたら、蛙はピターッと鳴くのを止めて、
池の中にスパーッとみな入って行ってしまった。
 それから、若者は、急いで家に帰ってきてたら、晩方になって、姉さま帰ってきたっけど。
「ただいま。」って。
 そしたら、頭に包帯などしてるんだど。
「なんだって、おかしなもんだなぁ。何か途中で痛くでもしたんだろうか、どうしたんだ。」
「いや、申し訳ないけれど、わたしは、わたしの本当の本性見られて、今までお前の嫁になっていたんだけれども、今日、家に帰って法事をしているところに、お前が来て、石投げられたものだから、まず、本性見られたものだから、もう嫁になっていれなくなった、これでお別れだ。」
って、そうして蛙の姿になって、ビタラビタラって帰ってしまったんだっけど。
蛙でも、人でも、忘れないで恩返しするものだから、人間なんて小さいことでも、大きくして返すもんだっけど。
どんびんと。

2005年01月23日

『大鳥と大海老と大鯨』

 いや、大きな鳳凰の鳥(こうのとり)ざぁ、大きな鳥で、羽根ひろげっど、

片方の羽根さ、山も二つもかかるほどの大きな鳥だったけど、ほうして日本国中、ずぅっと飛んできて、海の中さ大きな枯れ木のようなもの二本出っだもんだがら、そごさ止まって、
「いや、日本中旅してみだが、随分広いもんだ。随分広いげんども、おれぐらい大きいもの、世の中にいねな、こりゃ。おれは何ったて、世の中で一番大きいなぁ、こりゃ。」
なて、自慢にしったけど。
「こりゃ、ひとの髭さたぐついでんの、誰だ」
なて、大きい音すんのだど。
「何だなて、お前こそ何者だ」
「おれが、おれは今、海の中に居っげんども、海老だ。ひとの髭さ止まって、何だ。大きいどがて、おれくらい大きい者いねぇぞ。おれは大海老だ」
なて威張る。
「いやいや、海老の髭ざぁ、こがえに太いもんだがい、おれより大きい者いねななて、こんな髭見たばりで、おれぁ魂消だ」
なて、わらわら大鳥飛んで行ってしまった。
こんどぁ海老ぁ、
「いやいや、鳳凰鳥ぁ大きいなて自慢しったけぁ、逃げで行ったな、こりゃ」
 海老ぁじゃーって泳いで、ずうっと日本国中廻って歩いったらば、
「あんまり騒ぎすぎだ。くたびっじゃなぁ」
 大きな海の中の洞穴みだいなどごさ、ちょっと入って、
「ひと休みすっかぁ、まず、おれも日本国中騒いでみだげんども、おれくらい大きな者は居ねもんだなぁ、こりゃ。鳳凰鳥ぁ逃げて行ったし、おれ、何したて一番者だ」
「誰だ、そごで、おれぐらい大きな者いねなて、威張ってんな、おれの鼻の孔の中、もそもそて、ウウン、ハクション」
て、吹っ飛ばさっじゃど。そうしたらば海老ぁ、伊勢の方まで吹っ飛んできて、腰びーんとぶっつげて、それがら海老ぁ、腰曲がったど。ほうしたらば、
何者だが、
「おれぁ、世の中見で、海老大きいなて、鳳凰鳥大きいなて、おれくらい大きな者居ね、おれは鯨っていう者だ」
 ほうして日本もあんまり小っちゃこくて、傍さいらんねくて、南の海、北の海までずうっと鯨が騒いで、いんなだど。
どーびんと。
山形弁訳
 いや、大きな鳳凰の鳥(こうのとり)っていうのは、大きな鳥で、羽根を広げると、片方の羽根に、山が二つもかかるほどの大きな鳥だった、そうして日本国中、ずうっと飛んできて、海の中に大きな枯れ木のようなものが二本でてたものだから、そこに止まって、
「いや、日本中旅してみたが、随分広いものだ。随分広いけれども、おれくらい大きいもの、世の中にいないなぁ、こりゃ。おれは何たって、世の中で一番大きいなあ、こりゃ。」
なんて自慢にしてたど。
「こりゃ、ひとの髭にくっついてるの、誰だ。」
って大きい音するんだと。
「何だなんて、お前こそ何者だ。」
「おれが、おれは今、海の中に居るけれども、海老だ。ひとの髭に止まって、なんだ。大きいなんて、おれくらい大きい者いないぞ。おれは大海老だ。」
なんて威張る。
「いやいや、海老の髭って言うものは、こんなに太いものなのか、おれより大きい者いないなんて、こんな髭みたら、おれは魂消えた。」
って、わらわら大鳥飛んで行ってしまった。
こんどは海老ぁ、
「いやいや、鳳凰鳥は大きいなんて自慢してけど、逃げて行ったな、こりゃ。」
 海老はじゃーって泳いで、ずうっと日本国中廻って歩いたてら、
「あんまり騒ぎすぎた。疲れたなぁ。」
 大きな海の中の洞穴みたいなところに、ちょっと入って、
「ひと休みするかなぁ、まず、おれも日本国中騒いで見たけれども、おれくらい大きなものは居ないものだなぁ、こりゃ。鳳凰鳥は逃げて行ったし、おれ、何しても一番者だ。」
「誰だ、そこで、おれくらい大きな者いないなんて、威張ってるのは、おれの鼻の孔の中、もそもそって、ウウン、ハクション。」
って吹き飛ばされたんど。そうしたら、海老は、伊勢の方まで吹っ飛んできて、腰をびーんとぶつけて、それから海老は、腰が曲がったんだと。そうしたらば、何者か、
「おれは、世の中見て、海老大きいなんて、鳳凰鳥大きいなんて、おれくらい大きいものはいない、おれは鯨という者だ。」
 そうして、日本もあまりに小さくて、そばにいれなくて、南の海、北の海までずうっと鯨が騒いでいるのだと。
どーびんと。

2005年01月21日

『冬』山形県置賜地方の風景その1

雪囲いの上に積もった雪。お正月の風景でした。

山形の冬その1

2005年01月19日

『百足の医者迎え』

 虫の仲間で、一匹の虫が病気になった。

「はて、医者、わらわら呼ばって来んなねべ。こがえに急に病気になったらば、大変だべ」
「はて、誰、医者迎えに行って来んべ。お前は・・・」
「おれ、わかんね。半分飛ぶげども、半分しか飛ばんねし」
「いや、おれぁ、ピョンピョンて跳ねっけんど、横ちょの方さばり飛んでんから わかんねし・・・」
なて、何かかにか難癖つけて、行ぐという者いねがったけど。
「んだら、あの、百足ええでないが。百足は足いっぱいあっから、何したて、 一番早いべ、歩くごとは」
「ほだなぁ、ほんじゃ、百足さ頼んでくっか」なて、
「あの、百足よ、今急病で困ってっから、お前、一走り、医者呼ばて来て呉ねが」
なて、百足さ頼んだごんだど。
「ほだが」
百足は「やんだ」ても言わねで、「ほんじゃ、おれ行って来(く)っこで」
 ほうして、こっちは「苦しい、苦しい」なて・・・、うなって苦しがって居たど。
「何だて、百足は帰って来ねもんだなぁ。何しったんだべ。医者でも居ねなだべが」
て、心配していだけ。
「はて、百足、まだ帰って来ね。なじょしったべぁ、行ってみてくる」
 百足居たどさ、行って見たど。ほうしたれば、百足、まだ居たけずも。
「百足、何しったごんだ。あんなに、早く行ってきて呉ろて頼んだじば」
「いや、おれ、ワラジ履きしったでこ。おれぁ、いっぱいワラジ履がんなねもんだからよ、 出だすにゃ、遅くて、わかんねなだ」
 それから、<百足の医者呼ばり>て、なんぼ足なのいっぱいあったて、
何かかにか欠点あるもんだずがら、この人こうだ、なてばりいわねもんだど。
どーびんと。
山形弁訳
 虫の仲間で、一匹の虫が病気になった。
「はて、医者を急いで呼んでこなきゃならいな。こんなに急に病気になったら大変だろう。」
「はて、誰が医者を迎えに行ったらいいかなぁ・お前は・・・」
「おれは無理だ。ピョンピョンて跳ねるけれども、横の方にばっかり飛んでくから駄目だし・・・」
なんて、何かかにかに難癖つけて、行くって言う者がいなかったんだと。
「だったら、あの、百足がいいんじゃないか。百足は足がいっぱいあるから、何しても一番早いだろう、歩くことは。」
「そうだなあ、それじゃあ、百足に頼んでこようか」
って、
「あの、百足よ、今急病が出て困ってるから、お前、一走り、医者を呼んできてもらえないか。」
なんて、百足に頼んだんだと。
「わかった」
百足は「嫌だ」とも言わずに「それじゃあ、おれ行ってくるよ。」
 そして、こっちでは「苦しい苦しい」って唸って苦しがっていたど。
「何だって、百足は帰ってこないもんだなぁ。何をしてるんだろう。医者が見つからないんだろうか。」
て、心配していたんだと。
「はて、百足、まだ帰ってこない。なにをしてるんだろう、行ってみてくる。」
 百足の居るところに行ってみだんだと。そしたら、百足はまだ百足は居たんだと。
「百足、何してんだ。あんなに、早く行ってきてくれって頼んだのに。」
「いや、おれ、ワラジを履いてるんだ。おれぁ、いっぱいワラジ履かなきゃならないもんだから、出だすのは遅くて駄目なんだ。」
 それから<百足の医者呼ばり>っていって、どんなに足がいっぱいあっても、何かかにか欠点があるもんだから、この人こうだ、なんてばかり言えないもんだと。
どーびんと。

2005年01月18日

『雪女郎』

 吹雪で吹雪で、目もあてらんね吹雪の晩であったど。

 ある一軒の家さ、
「こんばんわ、こんばんわ、あの、旅の女だげんど、今晩一晩泊めていただけねべか」
 その家の親父、開けてみたらば、若い女立っていだけずも、ほうして見っど、顔付きあんまり赤味もさしていね、若い元気のねえ女だっけど。
「ああ、泊めだて、これ費用にもなんねな」
 その家の親父は欲深くて、
「あのな、せっかくだげんど、おら家(え)に病人いるもんだから、泊めらんねなよ」なて、
「ほだったべか」
「あの、隣の家さ行って頼んでみてごんざぇ」
なて言うもんだから、こんど隣の家さ、とことこ、とことこ行って、
ちょぇっと離っだ家さ行って、
「こんばんわ、こんばんわ」
「はいはい」
なて、じさま出て来たけずも。
「あの、旅のもんだげんど、今晩一晩泊めていただがんねべが」
「いやいや、こんな吹くに、お前一人で大変であったべ。
まずまず雪入んねばりもえがんべがら、おら家(え)さ泊まってごんざぇ」
 こころええぐ、そのじんつぁ泊めで呉っじゃけずも。ばんつぁもいでなぁ、
「食うもの、みな食って、食い終わってはぁ、何もねえげんどもよ、
ちいと温まって休むどええごで」
娘は
「おしょうしな」
ていいながら、ありがたいんだか、ポタポタて涙流しながら、喜んでいたけずも。
「ほんじゃまず、布団さ入って休んで呉ろはぁ、まず」
なて、家さ入っで貰っただけでも、えがったもんだから、娘は床の中さ入って寝たずも。
 次の日になったらば、じいさん、ばあさん起きてみだらば、いや、吹雪はピタリと止んでよ、青空も出てきて、
「今日はええ天気になンな、こりゃ。旅する娘、今日はお天気ええくて、 なんぼ喜んで行くべぁ、こりゃ。娘さんよ、まず起きやい。御飯も出っどこだし、起きやい。起きておくやい」
て言ったげんども、返事もしない。
「はて、奇態なもんだな、こりゃ」
なていだらば、布団、ぽこっとなっていっけんども、大きい音で呼ばっけんども、返事しね。
「悪れげんどもなぁ」
て、ひょいっとめくってみたら、娘いないし、寝た布団が、クチャクチャ濡っでだばりで、娘いねもんだけど、そいつが雪女郎ていうもんでな。
 それから、隣の泊めて呉ね家では、貧乏になって、かっちゃまえになってはぁ、その家では親父は病気になるはぁ、その家はずっと病人絶えねでしまって、こっちの、泊めで呉っじゃ家のじんつぁとばんちゃは、安泰に夫婦して福しくなって、ええあんばいに暮らしたけど。
ほして、雪女郎ているのは、あっちこっち廻って、人の気持ちを試して歩くもんだけど。
どんびんと。
山形弁訳
 吹雪で吹雪で、目もあてられない吹雪の晩でありました。
 ある一軒の家に、
「こんばんわ、こんばんわ、あの、旅の女ですが、今晩一晩泊めていただけないでしょうか。」
  その家の親父、戸開けてみたら、若い女が立っていたんだと。そうしてよく見ると、顔付き、あまり、赤みもさしていない、若い元気のない女だったど。
「ああ、泊めても、これはお金にならないな。」
 その家の親父は欲深くて、
「あのな、せっかくだけれど、我が家に病人いるものだから、泊められないのよ。」
なんて、
「そうでしたか。」
「あの、隣の家に行って頼んでみてください。」
って言うもんだから、今度は隣の家に、とことこ、とことこ行って、ちょっと離れた家にいって、
「こんばんわ、こんばんわ。」
「はいはい。」
なんて、じいさま出てきたんだと。
「あの、旅の者ですけど、今晩一晩泊めていただけないでしょうか。」
「いやいや、こんな吹雪くのに、お前一人で大変だったろう。まずまず、雪が入らないだけでもいいだろうから、我が家に泊まっていってください。」
 こころよく、そのじいさまは泊めてくれたんだと。ばあさまも居て、
「食うもの、みな食って、食い終わってはぁ、何もないけれども、ちょっと温まって休むといい。」
娘は、
「ありがとう。」
っていいながら、ありがたいんだか、ポタポタって涙流しながら、喜んでいたんだと。
「それじゃぁまず、布団に入って休んでください、まず。」
って、家に入れてもらっただけでも良かったものだから、娘は床の中に入って寝たんだと。
 次の日になって、じいさま、ばあさま起きてみたら、いや、吹雪はピタリと止んでて、青空も出てきて、
「今日はいい天気になるな、こりゃ。旅する娘、今日はお天気良くて、どれだけ喜んでいくだろう、こりゃ。娘さんよ、まず、起きなさい。御飯もできてることだし、起きなさい。起きてください。」
って言ったけれども、返事もない。
「はて、奇態なものだな、こりゃ。」
っていたら、布団、ぽこっとなってるんだけれども、大きい音で呼んでも、返事がない。
「悪いけれども。」
って、ひょいっとめくってみたら、娘いないし、寝た布団が、クチャクチャ濡れてるばかりで、娘はいなかったんだと、そいつが雪女郎っていうものでな。
 それから、隣の泊めてあげなかった家では、貧乏になって、逆になって、その家では親父は病気になるし、その家はずっと病人が絶えないでしまって、こっちの、泊めてあげた家のじいさまとばあさまは、安泰に夫婦で豊かになって、いいあんばいに暮らしましたと。
そして、雪女郎っていうのは、あっちこっち廻って、人の気持ちを試して歩くもんだと。
どんびんと。

2005年01月18日

牛蒡と人参と大根で、ある日、旅さ行ったんど。

んで、あるどごさ泊まって、宿の爺さんが、
「風呂さ入っておくやい」
っていうもんだがら、お前入って来い、そなた入って来いて、
「まず、人参、先入って来い」
「ほだが」
なて、人参、先一番に行ったけずも。ほうして、風呂さ行って、
なかなか熱いげんど、水、どっから汲んで埋めるもんだが水
さっぱり見当だんねし、大きい音立てて聞いてるのもと思って、
人参は熱いのを我慢して、じゃぶっと入ってはぁ、
わらわら上がって来た。
「いやいやええ湯だった、まず。次は牛蒡入って来い、まず」
 牛蒡、
「ほだが、おれ先入ってくんべ。大根、おれ先に入ってくんぞはぁ」
 ほして牛蒡は風呂場さ行って、風呂さ入ったど思ったらば、
いや、熱くて入らんにぇ。
「いや、人参、入んねで、ちとあちこち拭いできて、
赤くなってきたんだな、こりゃ」
 ほうして、牛蒡、入りもしねで、そのまま帰って来て、
「いや、ええお湯だった、ええお湯だった。大根入って来い」
「ほだが、ほんじゃ、おれ最後に入れでもらうがはぁ」
なて大根入りに行った。
 ほうして行ったらば、煮立つみでに熱いお湯だったもんだがら、
「ははぁ、こりゃ、人参も牛蒡も入ったふりして、
さっぱり入んねがったな。はて、風呂釜近くだもの、
探せば水あんべした」
て、ちょうど戸開けて見だれば、ちっちゃこい川流っでだ。
そっから水汲んできて、
ええ塩梅に埋めで、ゆっくり大根は入って、頭のてっぺんから足の先まで、
きれいに洗ってきたけど。
 ほだから、人参は熱いお湯さちょこっと入ったばりで赤ぐなって、
牛蒡は、入ったふりして入んねで、
大根はゆっくり入ったばきれいになったんど。
最初は牛蒡ど同じような色であったげんど、人参も大根も、
それがらそういう風に色が変わってきたんだど。
どーびんと。
山形弁訳  牛蒡と人参と大根で、ある日、旅に行ったんだと。んであるところに泊まって、宿のじいさんが、
「風呂に入ってください。」
っていうものだから、お前入って来い、そなた入って来いて、
「まず、人参、先入って来い。」
「わかった。」
なんて、人参、先一番に行ったんだと。そして、風呂に行って、なかなか熱いんだけど、水をどこから汲んできて埋めるものなのか、水がさっぱり見当たらないし、大きい音立てて聞いてるのもと思って、人参は熱いのを我慢してじゃぶっと入ってから、
急いで上がってきた。
「いやいや、いいお湯だった、まず。次は牛蒡入って来い。」
牛蒡、
「そうか、おれ先入って来る。大根、おれ先に入ってくるぞ。」
 そして牛蒡は風呂場に行って、風呂に入ったと思ったら、いや、熱くては入れない。
 「いや、人参、入らないで、ちょっとあちこち拭いてきて、赤くなってきたんだな、こりゃぁ」
 そして、牛蒡、入りもしないで、そのまま帰ってきて、
「いや、いいお湯だった、いいお湯だった。大根入って来い。」
「そうか、それじゃあ、おれ最後に入れてもらうかなぁ。」
なんて大根入りに行った。
 そして、行ってみたら、煮立つみたいに熱いお湯だったもんだから、
「ははぁ、こりゃ人参も牛蒡も入ったふりして、さっぱり入らなかったんだな。はて、風呂釜の近くなんだから、探せば水があるだろう。」
て、ちょうど戸開けてみたら、ちいさい川が流れてた。そこから水汲んできて、いい塩梅に埋めて、ゆっくり大根は入って、頭のてっぺんから足の先まで、きれいに洗ってきたんだと。
 だから、人参は熱いお湯にちょっと入っただけで赤くなって、牛蒡は、入ったふりして入らなくって、大根はゆっくり入ったからきれいになったんだと。
最初は牛蒡と同じような色だったのに、人参も大根も、それからそういうふうに色が変わってきたんだと。
どーびんと。

2005年01月18日

山形弁で紹介して欲しい民話・昔話やリンクの依頼などをお待ちしております。

●サイト全般に関する問合せ:web@yamagata-info.com

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2005年01月18日

山形県は大きく「庄内・最上・村山・置賜」に分けられ、さらに市町村や集落・年代でも違った方言が使用されます。
 管理者は置賜地方で生活してましたので、その周辺で使用する方言を置賜方言。さらには山形弁として紹介しております。当サイトで使われる山形弁は置賜地方の方言になります。

2005年01月18日

2005年01月18日

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