2008年03月08日

『稲のはじまり』

 ずうっとむがしのごどだど。
人が稲など見だごどねえどぎに、お稲荷様のお使いで、狐ぁ唐の国さ行って、

「稲どいうなの穂貰ってこい、穂どいうなは稲の種だがら、そいづどご大事に貰ってこいよ」て。
  ほうして唐の国さ狐、お使いに行ったなよ。
狐は唐の国がら、その穂っていうな一本貰ってきて、
お稲荷さまんどさ行ぐどしたらば、人に見つかったんだど。
「狐ぁなんかくわえできた。あれなんだべな」
って、人みんながら狐ぁおっかげらっちゃども。
狐ぁ一生懸命走ったそうだげんども、
口さ穂くわえだまんまなもんだがら、
口あがんにぇし、口あがんにぇど息もさんにぇもんだがら、
沼のどさ来たどぎに、一本の穂どご沼の泥の中さ隠して、
ちかぐの葭(よし)一本くわえで切って、その先さ泥付けで、
目印に立ででがら、お稲荷様んどごさ帰ったど。
ほうして、
「人に追っかけらっちぇ、穂貰ってきたんだげんど、こごまで持ってこらんにぇがったがら、途中さ隠しったがら、一緒に行って探しておごやんねが」
て、お稲荷様さ頼んだど。
  お稲荷様ど狐で沼の端まで行ってみだらば、さごって、いっぱい実なってだったど。
「はぁ、これが稲っていうもんだな、こりゃ」
お稲荷様、
「よぐ戻ってきた。お前、よぐこごさ目印の葭棒一本立ででったな」
今では、苗代こしゃった時、苗実の竹だて、真中さ葭棒一本、ちょこんと立でだものがよ。そいづのなごりで立でであったもんだど。
とーびんと。

山形弁訳

 ずうっと昔のことだと。
人が稲なんて見たことのないときに、お稲荷雅のお使いで、狐は唐の国に行って、
「稲というものの穂を貰って来い、穂というのは稲のたねだから、そいつを大事にもらってくるんだぞ」て。
  ほうして唐の国に狐、お使いに行ったんだと。狐は唐の国から、その穂というもの一本貰ってきて、お稲荷様のところに行こうとしたら、人に見つかったんだと。
「狐が何かくわえていた。あれなんだろうな」
って人みんなに狐は追いかけられたんだそうな。
狐は一生懸命走ったそうだけれども、口に穂くわえたままなものだから、口を開けられないし、口が開けられないから息もできないものだから、沼のところに来たときに、一本の穂を沼の泥の中に隠して、近くの葭(よし)一本くわえて切って、その先に泥を付けて目印に立ててから、お稲荷様のところに帰ったんだと。
ほうして、
「人に追いかけられて、穂を貰ってきたんだけれども、ここまで持ってこれなかったから、途中に隠してきたから、一緒に行って探して遅れませんか」
て、お稲荷様にたのんだんだと。
お稲荷様と狐で沼の端まで行ってみたら、さごって、いっぱい実がなっていたんだと。
「はぁ、これが稲っていうものだな、こりゃ」
お稲荷様、
「よく戻ってきた。お前、よくここに目印の葭棒一本立てておいたな」
今では、苗代拵(こしら)えたとき、苗実の竹だて、真中に葭棒一本、ちょこんと立てたものが、そのときの名残で立てているものなんだと。
とーびんと。

2008年03月08日

 むがあしむがあし、あるどごさ、

  とでも器量よしの娘いだっけど。器量はいいんだげんども、少しばかり頭われ娘だっけど。
  その娘ぁ見込まっちぇ、とっても、だんなす(金持ち)の家さ、
  嫁に貰われるごどになったなだそうだ。
  お母ぁは心配してはぁ、
「お前は顔つぎはいいんだげんども、喋るごどはぞんざいで困ったもんだ、
  喋っときには、何でも[オ]をつげっと、いぐ聞こえっから、
人ど喋っとぎは[オ]つげで喋れよ」
っておしぇらっちぇ、むがさりさ行ったけど。
  そうして、しばらぐしてがら、流しで後仕舞しったけど。
  そうしたら、流しの窓の隙間がら風はいってきて、
  柱さぶらさげったった擂粉木棒が、コトンコトンと鳴ったんだど。
ほしたら、嫁は、みなの居だ囲炉裏側さ来て、
「あのなぁ、お窓のお隙間がらお風が入ってきて、お擂粉木棒が、おコトンおコトンって鳴ったっけっし」
と言ったんだと。嫁は何にもしゃべんねど悪い、ど思って喋ったんだげんども、
  ははぁ、家で[オ]つげで喋ろ、っておしぇらっちぇきたなぁ、
  と思ったお母さは、
「あのな、[オ]つけんなはな、とってもいいごどだげんども、
  何さも、かにさも[オ]つけねくたっていいごでぇ」
とおしぇらっちゃど。
  次の朝、みな揃って、御飯食っていだどぎに、向かいさ座ってだお父っつぁまの、おどがい(あご)さ御飯粒ついったったんだど。
  嫁は、ははぁ、おもしぇなぁ、んだげんどこれは黙ってらんにぇべなぁ、ど思って、
「あのなっし、ヤジ、ドガエさ、ママついで、ラ、ガシ、ラ、ガシ」
・・・親父のおどがいさ、御飯粒ついで、おら、おがし、おら、おがし。
って、言いっちぇがったんだげんど、
  [オ]つけねだっていいって、おしぇらっちゃもんだがら、[オ]どごとったらば、そういう言葉になったんだど。
  ほだがら、馬鹿になんねように、勉強しとがんなねもんだど。
  とーびんと。

山形弁訳

  むかしむかし、あるところに、
とても器量よしの娘がいたんだと。器量はいいんだけれども、少しばかり頭の悪い娘だったそうな。
  その娘は、見込まれて、とてもお金持ちの家に嫁に貰われることになったのだそうな。
  お母さんは心配して、
「お前は顔付きはいいんだけれども、喋ることはぞんざいで困ったものだ、喋るときには、何でも[オ]を付けると、よく聞こえるから、人と喋るときは[オ]を付けて喋るんだよ」
って教えられて、嫁入りしたんだと。
  そうして、しばらくしてから、流しで後仕舞をしていたんだと。
  そうしたら、流しの窓の隙間から風が入ってきて、柱にぶら下げている擂粉木棒(すりこぎぼう)が、コトンコトンとなったんだそうな。
そしたら、嫁は、皆のいる囲炉裏側に来て、
「あのなぁ、お窓のお隙間からお風が入ってきて、お擂粉木棒が、おコトンおコトンってなったんですよ」
と言ったんだと。嫁は何にも喋らないのは良くないと思って喋ったんだけれども、
  ははぁ、家で[オ]をつけて喋ろって教えられてきたな、
  と思ったお母さんは、
「あのな、[オ]をつけるのは、とてもいいことなのだけれども、何でもかんでも[オ]を付けなくてもいいんだよ」
と教えたんだと。
  次の朝、皆揃って、御飯食べていたときに、向かいに座っているお父さんのあごに御飯粒がついていたんだと。
  嫁は、ははぁ、おもしろいなぁ、でもこれは黙っていたらいけないだろう、と思って、
「あのな、ヤジ、ドガエに、ママがついてて、ラ、ガシ、ラ、ガシ」
・・・親父のおどがいに、御飯粒がついていて、おら、可笑しい、おら、可笑しい。
って言いたかったんだけれども、
  [オ]を付けなくてもいいって教えられたものだから、[オ]をとってしまったら、そういう言葉になったんだと。
  だからな、馬鹿にならないように、勉強はしておくものなんだと。
 とーびんと。

2008年03月08日

 むがしむがし、あるどごさ長者様いだっけど。

  長者様の家さ、めんごい一人娘いだったそうだ。
  その娘ぁ、昔話が大好ぎで大好ぎで、飽ぎるごどしゃぁねごんだど。
  長者様は、めんごい娘に、昔話いっぺ知ってだ婿もらって呉っぺど思って探しったけど。
  ほうしたら、一人の男が訪ねできて、
「俺は飽ぎるほど語られる」
と名乗り出たんだと。ほして語ってもらったどごろぁ、語っても語っても娘は飽ぎねくて、男はとうとう逃げで帰ってしまったっけど。
  ほしたら又、一人の男が訪ねできて、
「俺も飽ぎるほど語られる」
というもんだがら、語ってもらったんだど。
  これも又、語っても語っても、娘は飽ぎねくて、語り尽ぐしてしまったんだど。
  男は、語り尽ぐしてしまったし、語り疲っちゃしはぁ、しばらぐ、考えだごんだど。
  ほうして、じぎに暖がくなっと蛇ででくんなぁ、ど思って語り始めだど。
「むがあしむがあし、大光院の大きな木の根っこさ、蛇の穴あったっけど、そっから蛇ぁでできて、
  今日ものろのろ、のろのろのろのろ
  明日ものろのろ、のろのろのろのろ
  明後日ものろのろ、のろのろのろのろ
  やなさっても、のろのろ、のろのろのろのろ
  毎日のろのろ、のろのろのろのろ
  のろのろのろのろ、のろのろのろのろ」
ど、ずっとのろのろ語って聞がせだど。
のろのろがあんまり続ぐもんだがら、
長者の娘はとうとう、
「飽ぎだはぁー」
ど言って、若者は長者様の婿にもらわっちぇ、幸せに暮らしたんだどうだ。
  ほだがらなぁ、何ごどさも知恵ば働がして、根気強ぐしんなねもんなんだど。

 とーびんと。


山形弁訳

 むかしむかし、あるところに長者様がいたそうな。
  長者様の家には、かわいい一人娘がいたんだそうだ。
  その娘は、昔話が大好きで大好きで、飽きることを知らないんだと。
 長者様は、かわいい娘に、昔話を沢山知っている婿を貰ってあげようと思って探してたんだと。
 そうしたら、一人の男が訪ねてきて、
「俺は飽きるほど語られる」
と名乗り出たんだと。そして語ってもらったところ、語っても語っても娘は飽きなくて、男はとうとう逃げて帰ってしまったど。
 そしたらまた、一人の男が訪ねてきて、
「俺も飽きるほど語られる」
というものだから、語ってもらったんだと。
 これもまた、語っても語っても、娘は飽きなくて、語りつくしてしまったんだと。
 男は、語りつくしてしまったし、語り疲れたしではぁ、しばらく、考えたんだと。
 そうして、じきに暖かくなってくると蛇が出てくるなぁ、と思って語り始めたど。
「むかあしむかあし、大光院の大きな木の根っこに、蛇の穴あったっけど、そっから蛇がでてきて、
  今日ものろのろ、のろのろのろのろ
  明日ものろのろ、のろのろのろのろ
  明後日ものろのろ、のろのろのろのろ
  やなさっても、のろのろ、のろのろのろのろ
  毎日のろのろ、のろのろのろのろ
  のろのろのろのろ、のろのろのろのろ」
ど、ずっとのろのろ語って聞かせたんだと。
のろのろがあんまり続くものだから、
長者の娘はとうとう、
「飽きたー」
って言って、若者は長者様の婿に貰われて、幸せに暮らしたんだと。
 だからな、何事も知恵を働かせて、根気強くしなければならないものなんだと。

 とーびんと。

2008年03月08日

あるどごで婿さんもらったども。

  婿さんは親類の家さ、
「お前んどごで初婿もらったな、おら家さよごして呉ろ」
なて言わっで招ばっで行ったんだども。
  そして招ばっで行ったらば、
「ああ、婿さん、お前がぁ。いや実はお前さ飲ませっかど思って、梁の上さ、酒作っていだなよ。いま、梁さ上がって酒瓶降ろすがらよ、お前、尻、ぎっとつかんでで呉ろやい。でーんと落すど、ぼっこれっど悪れがら、ぎゅっとつかんでで呉ろよ」
て頼んで、そこの家の親父ぁ、梁の上さ、梯子かけて登って行ったども。
  ほうして、仕込んでだなさ、縄かげて、
「ええか、落とすぞ」
て、ずずーッと落としたども。
「ええが、尻押えんなねぞ。尻ぎっちり押さえろよ」
「ああ、押さえっだ、押さえっだ」
  下で婿言うもんだから、
「ほら、いまちいとだぞ。いまちいとだ、ちいとだ」
「ほんだら、ええがんべが」
  いま少しで届きそうだて、親父、はっと縄放したども。
ほしたらば、瓶がガチャーンと落ぢで割っちぇしまった。
「なえだ。あれほど、あがえに尻押さえでで呉けろよ、て頼んでだのば、なして押さえでで呉ねなんや」
ほしたら婿さんは、
「ほら、さっきから、おれの尻押さえっだぜぇ」
て。
  尻間違いだったけど。
どんびんと。

山形弁訳

  あるところで婿さんをもらったんだと。
  婿さんは親戚の家に、
「お前のところで初婿貰ったのを、俺の家に来させてくれ」
なんて言われて招かれて行ったんだと。
  そして招かれて行ってみたら、
「ああ、婿さん、お前かぁ。いや実はお前に飲ませようと思って、梁の上に、酒を作っていたんだよ。いま、梁に上がって酒瓶降ろすから、お前、(酒瓶の)尻、ぎゅっとつかんでてくれ。でーんと落すと、こわれるといけないから、ぎゅっとつかんでてくれよ」
て頼んで、そこの家の親父ぁ、梁の上に、梯子かけて登って行ったんだと。
  ほうして、仕込んでいた酒瓶に、縄をかけて、
「ええか、落とすぞ」
て、ずずーッと落としたんだと。
「ええが、尻押えなきゃならないんだぞ。尻ぎっちり押さえろよ」
「ああ、押さえてる、押さえてる」
  下で婿が言うものだから、
「ほら、もうすこしだぞ。もうすこしだ、すこしだ」
「それじゃあ、大丈夫だろうか」
  もう少しで届きそうだって、親父、はっと縄放したんだと。
ほしたらば、瓶がガチャーンと落ちて割れてしまった。
「なんだ。あれほど、あんなに尻押さえててくれよ、て頼んでたのに、なんで押さえててくれなかったんや」
そしたら婿さんは、
「ほら、さっきから、おれの尻押さえったぜぇ」
て。
  尻間違いだったけど。
どんびんと。

2008年03月08日

むがあしむがあし、とんと昔のごどだ。

 ある処さ、親父とおっかぁ居だっけど。
 その人達ぁ、とんと働ぎ者でよ、朝げ早ぐがら夜遅ぐまで働ぐ人で、酒も飲まねで、煙草も吸わねで、銭いっぺたまってだっけど。
 そごの家の天井さは、貧乏の神いだっけど。
ほだげんどもなぁ、そごの家の親父どおっかぁ、あんまり働ぐもんだがら、その家さ、居らんにぇぐなっかったんだど。
  ほうして年越しの晩、貧乏の神は、
「あーん、あーん」
って泣いったけど。家の人達は、
「なんだえ天井で誰が泣ぐ音すんなぁ、誰だべ、こげな夜中によ」
  行ってみだれば、貧乏の神だったんだど。
「貧乏の神貧乏の神、なしてそがいに泣いったなだ」
って聞いでみだらば、貧乏の神は、
「あーん、あーん。俺よ、こごの家さいづまでも厄介になっていっちぇんだげんども、お前様達ぁ、あんまり働ぐもんだがら、俺ぁ出で行がんなねぐなったなよ、じぎいに福の神ぁ来て、俺ぼたされんなよ。ほだげんど、俺ぁどごさも行ぐどごねくて泣いったんだ」
  それを聞いだ親父とおっかは、
「何だ。もごさいごど。このまま居でけろ、福の神来ただって追っ払って呉っがらよ」
って言って、貧乏の神ぁ喜んで、
「いがったいがった。ほんじゃ俺さ飯一杯御馳走してけろ。飯食(か)ねど腹さ力はいんねくて」
と赤い魚で飯一杯食ったど。
そうしたどごろぁ、
「とんとん」
と戸叩いで福の神ぁ来たんだど。
「貧乏の神貧乏神、こごの家はお前の居るどごでねぇ、どさでもいいがら早ぐ出で行げ」
って言ってどんどん入って来たなだっけど。
  貧乏の神は、これは大変だぁ、って一生懸命おっつけだっけど。負げそうになったら、、親父どおっかも貧乏の神に助太刀して、福の神どごおっつけでやったど。
  福の神は、
「あーあ、これはかなわね」
って逃げでったど。
あんまり急いで逃げだもんだがら、打ち出の小槌という物落どして行ってしまったっけどはぁ。
  打ち出の小槌ってなはな、
「米出ろ」
って言うど米。
「金出ろ」
って言うど金。
なんでもいっぺ出すもんだっけど。
貧乏の神ぁ、
「これぁ、いい物置いでって呉っちゃ」
って喜んで、喜んで、
「米出ろ、金出ろ、米出ろ金出ろ」
って言ったもんだがら、家の中じゅう米ど金だらけになってしまったっけどはぁ。
  ほうして貧乏の神は福の神になって、そごの家は益々繁盛して、親父どおっかぁは、楽々暮らしたっけど。
  ほだがらなぁ、見かけや名前だげで、良し悪しはきめらんにぇもんなんだど。

  とーびんと。

山形弁訳

 むかしむかし、とんと昔。
 ある処に、親父とおっかぁ居たんだと。
 その人達は、とても働き者で、朝早くから夜遅くまで働く人で、酒も飲まないで、煙草も吸わないで、お金いっぱい貯めていたんだと。
 そこの家の天井には、貧乏の神居たんだと。
だけれども、そこの家の親父とおっかぁが、あんまり働くものだから、その家に居られないようになったんだと。
  そして年越しの晩、貧乏の神は、
「あーん、あーん」
って泣いていたんだと。家の人たちは、
「なんだろう、天井で誰か泣く音がするなぁ、誰だろう、こんな夜中に」
  行ってみたら、貧乏の神だったんだと。
「貧乏の神貧乏の神、どうしてそんなに泣いているんだい」
って聞いてみたら、貧乏の神は、
「あーん、あーん。俺よ、ここの家にいつまでも厄介になっていたいんだけれども、お前達は、あんまり働くものだから、俺は出て行かなきゃならなくなったのよ、じきに福の神が来て、俺追い出されるんだよ。だけど、俺はどこにも行くところが無くて泣いているんだ」
  それを聞いた親父とおっかぁは、
「なんだ、かわいそうだこと。このまま居てちょうだい、福の神来たって追い払ってやるからよ」
って言って、貧乏の神は喜んで。
「よかったよかった。それじゃあ俺にご飯一杯ご馳走してください。ご飯食べないと腹に力が入らなくて」
と赤い魚でご飯一杯食べたんだと。
そうしたところに、
「とんとん」
と戸叩いて福の神が来たんだと。
「貧乏神貧乏神、ここの家はお前のいるところじゃない。どこへでもいいから早く出て行け」
って言ってどんどん入ってきたんだっけど。
  貧乏の神は、これは大変だぁ、って一生懸命押しやったっけど。負けそうになったら、親父とおっかも貧乏の神に助太刀して、福の神を押しやったっけど。
  福の神は、
「あーあ、これはかなわない」
って逃げて行ったど。
あんまり急いで逃げたものだから、打ち出の小槌というものを落として行ってしまったっけど。
  打ち出の小槌っていうものはな
「米出ろ」
って言うと米。
「金出ろ」
って言うと金。
なんでもたくさん出すものだっけど。
貧乏の神は、
「これは、いいもの置いてってくれた」
って喜んで喜んで、
「米出ろ、金出ろ、米出ろ、金出ろ」
って言ったもんだから、家の中じゅう米と金だらけになってしまったっけど。
  そうして貧乏の神は福の神になって、そこの家は益々繁盛して、親父とおっかぁは、楽々暮らしたんだと。
  だからな、見かけや名前だけで良し悪しは決められないものなんだと。

どんびんと。