2005年12月31日

『三枚のお札』

むがし、むがしあったど。

彼岸が来て、綺麗な姉様寺参りさ来たっけど。
あんまり綺麗な姉様だもんだがら、寺の小坊主、ボーっとなって、姉様の下駄隠しだど。
帰りに姉様の下駄ねぇもんだがら、
「小坊っちゃ、私の下駄ねえなよ。後でお礼すっから、下駄探しておごやぇ」
って頼んだど。ほうして、
「私は、山奥のほうさ住んでだがら、栗が沢山なったら、お礼に栗食いに来とごぇ」
って言って帰って行ったど。
 秋がきて、綺麗な姉様のごど思い出して、行ぎだくなって、和尚様さ頼んだど。
 和尚様は、
変な姉様だったげんど、大丈夫だべがなぁ。
って思ったげんど、仕方ねぐ、
「有難い経文札三枚呉(け)っちぇやっから、困った時、危険な目さ遭った時、お札さ願いかげで頼めよ」
って、三枚のお札貰って山奥さ行ったど。
小坊主が姉様の家さ着ぐど洗濯しったけど。
「よぐ来とごやった、さぁさぁ上がっとごやぇ」
「丁度、栗のさかりだがら、洗濯終わるまで栗拾いしてきとごやぇ」
って言われ、裏山がら籠いっぱい拾ってきたど。
ほうして、煮だり、焼いだりして、栗いっぺごっつぉになったど。
「小坊っちゃ、日暮れできたがら、これがら戻んなは大変だべ。今夜は泊まっていったらいいんねが」
って言われで、座敷さ泊めでもらったど。
ほして、夜中に、パチパチって火の燃える音して、目覚めだど。
そしたら、姉様ぁ鬼になって火焚ぎしったっけど。
「栗いっぱい食った小坊主は、なんぼが、んめがんべなぁ」
ってブツブツ言ってだっけど。
  俺食われでしまう、逃げ出さんなね。

と思案したど。
「姉様、俺、雪隠(便所)さ行ってくる」
って言ったけど。
「ほんじゃ、腰さ綱付けで行げ」
長い綱付けらっちぇはぁ、雪隠さ行ったど。
そして考えだど。
雪隠の取っ手さ一枚のお札つけで、
「呼ばっちゃら、返事してけろな、頼む」
って言って逃げ出したど。
あんまり雪隠がら戻って来ねもんだがら、姉様、鬼の顔丸出しで、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
って聞いだど、お札は、
〈まだだぁ〉
って返事したっけど。
その間、小坊主ぁ一心不乱に逃げだど。
それがら又、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
〈まだだぁ〉
三回も四回も五回も呼んだげど、返事はすっけんども、さっぱり出でこねがったど。
おがしなぁど思って行ってみだらば、綱どお札しかねがった。
「小坊主に逃げらっちゃ、まだその辺さいだべ」
と、鬼ぁ小坊主どご追っかげだど。
鬼の足ぁ早いもんだがら、たぢまぢ追いつがっちぇ、取って食われっとごだったど。
和尚様がらもらった、有難い経文のお札又一枚出して、
「大っきい大っきい砂山になれ」
ってお札投げでやったど。
そしたら、大っきな、とんでもねぐ大っきな砂山出来だど。
鬼ぁ登っと、ズルズルズルズル崩っちぇ、ながなが(なかなか)登らんにぇがったど。
ほだげんど、鬼の足ぁ早いもんだがら、又追いついで、食われそうになったど。

もう一枚残ってだお札さ、願いこめで、
「大川になれー」
って叫んでお札投げでやったど。
堤のように大っきな川が流れ出したっけど。
又鬼ぁ、流されそうになっても、必死になって泳いできたげんども、流れが強くて、ながなが岸さ辿り着がんにぇんだど。
あど、お札はねぐなったべし、小坊主は、そのうぢ、
「助けでけろ、和尚様、助けでけろ」
って一心不乱で逃げだど。
そして、逃げ帰ってきた小坊主を和尚様は、釣り鐘下げで中に入れで助けでやったんだど。

とーびんと。
山形弁訳
 むがし、むがしあったど。
彼岸が来て、綺麗な姉様寺参りさ来たっけど。
あんまり綺麗な姉様だもんだがら、寺の小坊主、ボーっとなって、姉様の下駄隠しだど。
帰りに姉様の下駄ねぇもんだがら、
「小坊っちゃ、私の下駄ねえなよ。後でお礼すっから、下駄探しておごやぇ」
って頼んだど。ほうして、
「私は、山奥のほうさ住んでだがら、栗が沢山なったら、お礼に栗食いに来とごぇ」
って言って帰って行ったど。
 秋がきて、綺麗な姉様のごど思い出して、行ぎだくなって、和尚様さ頼んだど。
 和尚様は、
変な姉様だったげんど、大丈夫だべがなぁ。
って思ったげんど、仕方ねぐ、
「有難い経文札三枚呉(け)っちぇやっから、困った時、危険な目さ遭った時、お札さ願いかげで頼めよ」
って、三枚のお札貰って山奥さ行ったど。
小坊主が姉様の家さ着ぐど洗濯しったけど。
「よぐ来とごやった、さぁさぁ上がっとごやぇ」
「丁度、栗のさかりだがら、洗濯終わるまで栗拾いしてきとごやぇ」
って言われ、裏山がら籠いっぱい拾ってきたど。
ほうして、煮だり、焼いだりして、栗いっぺごっつぉになったど。
「小坊っちゃ、日暮れできたがら、これがら戻んなは大変だべ。今夜は泊まっていったらいいんねが」
って言われで、座敷さ泊めでもらったど。
ほして、夜中に、パチパチって火の燃える音して、目覚めだど。
そしたら、姉様ぁ鬼になって火焚ぎしったっけど。
「栗いっぱい食った小坊主は、なんぼが、んめがんべなぁ」
ってブツブツ言ってだっけど。
  俺食われでしまう、逃げ出さんなね。
と思案したど。
「姉様、俺、雪隠(便所)さ行ってくる」
って言ったけど。
「ほんじゃ、腰さ綱付けで行げ」
長い綱付けらっちぇはぁ、雪隠さ行ったど。
そして考えだど。
雪隠の取っ手さ一枚のお札つけで、
「呼ばっちゃら、返事してけろな、頼む」
って言って逃げ出したど。
あんまり雪隠がら戻って来ねもんだがら、姉様、鬼の顔丸出しで、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
って聞いだど、お札は、
〈まだだぁ〉
って返事したっけど。
その間、小坊主ぁ一心不乱に逃げだど。
それがら又、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
〈まだだぁ〉
三回も四回も五回も呼んだげど、返事はすっけんども、さっぱり出でこねがったど。
おがしなぁど思って行ってみだらば、綱どお札しかねがった。
「小坊主に逃げらっちゃ、まだその辺さいだべ」
と、鬼ぁ小坊主どご追っかげだど。
鬼の足ぁ早いもんだがら、たぢまぢ追いつがっちぇ、取って食われっとごだったど。
和尚様がらもらった、有難い経文のお札又一枚出して、
「大っきい大っきい砂山になれ」
ってお札投げでやったど。
そしたら、大っきな、とんでもねぐ大っきな砂山出来だど。
鬼ぁ登っと、ズルズルズルズル崩っちぇ、ながなが(なかなか)登らんにぇがったど。
ほだげんど、鬼の足ぁ早いもんだがら、又追いついで、食われそうになったど。
もう一枚残ってだお札さ、願いこめで、
「大川になれー」
って叫んでお札投げでやったど。
堤のように大っきな川が流れ出したっけど。
又鬼ぁ、流されそうになっても、必死になって泳いできたげんども、流れが強くて、ながなが岸さ辿り着がんにぇんだど。
あど、お札はねぐなったべし、小坊主は、そのうぢ、
「助けでけろ、和尚様、助けでけろ」
って一心不乱で逃げだど。
そして、逃げ帰ってきた小坊主を和尚様は、釣り鐘下げで中に入れで助けでやったんだど。

とーびんと。