2005年01月19日

『百足の医者迎え』

 虫の仲間で、一匹の虫が病気になった。

「はて、医者、わらわら呼ばって来んなねべ。こがえに急に病気になったらば、大変だべ」
「はて、誰、医者迎えに行って来んべ。お前は・・・」
「おれ、わかんね。半分飛ぶげども、半分しか飛ばんねし」
「いや、おれぁ、ピョンピョンて跳ねっけんど、横ちょの方さばり飛んでんから わかんねし・・・」
なて、何かかにか難癖つけて、行ぐという者いねがったけど。
「んだら、あの、百足ええでないが。百足は足いっぱいあっから、何したて、 一番早いべ、歩くごとは」
「ほだなぁ、ほんじゃ、百足さ頼んでくっか」なて、
「あの、百足よ、今急病で困ってっから、お前、一走り、医者呼ばて来て呉ねが」
なて、百足さ頼んだごんだど。
「ほだが」
百足は「やんだ」ても言わねで、「ほんじゃ、おれ行って来(く)っこで」
 ほうして、こっちは「苦しい、苦しい」なて・・・、うなって苦しがって居たど。
「何だて、百足は帰って来ねもんだなぁ。何しったんだべ。医者でも居ねなだべが」
て、心配していだけ。
「はて、百足、まだ帰って来ね。なじょしったべぁ、行ってみてくる」
 百足居たどさ、行って見たど。ほうしたれば、百足、まだ居たけずも。
「百足、何しったごんだ。あんなに、早く行ってきて呉ろて頼んだじば」
「いや、おれ、ワラジ履きしったでこ。おれぁ、いっぱいワラジ履がんなねもんだからよ、 出だすにゃ、遅くて、わかんねなだ」
 それから、<百足の医者呼ばり>て、なんぼ足なのいっぱいあったて、
何かかにか欠点あるもんだずがら、この人こうだ、なてばりいわねもんだど。
どーびんと。
山形弁訳
 虫の仲間で、一匹の虫が病気になった。
「はて、医者を急いで呼んでこなきゃならいな。こんなに急に病気になったら大変だろう。」
「はて、誰が医者を迎えに行ったらいいかなぁ・お前は・・・」
「おれは無理だ。ピョンピョンて跳ねるけれども、横の方にばっかり飛んでくから駄目だし・・・」
なんて、何かかにかに難癖つけて、行くって言う者がいなかったんだと。
「だったら、あの、百足がいいんじゃないか。百足は足がいっぱいあるから、何しても一番早いだろう、歩くことは。」
「そうだなあ、それじゃあ、百足に頼んでこようか」
って、
「あの、百足よ、今急病が出て困ってるから、お前、一走り、医者を呼んできてもらえないか。」
なんて、百足に頼んだんだと。
「わかった」
百足は「嫌だ」とも言わずに「それじゃあ、おれ行ってくるよ。」
 そして、こっちでは「苦しい苦しい」って唸って苦しがっていたど。
「何だって、百足は帰ってこないもんだなぁ。何をしてるんだろう。医者が見つからないんだろうか。」
て、心配していたんだと。
「はて、百足、まだ帰ってこない。なにをしてるんだろう、行ってみてくる。」
 百足の居るところに行ってみだんだと。そしたら、百足はまだ百足は居たんだと。
「百足、何してんだ。あんなに、早く行ってきてくれって頼んだのに。」
「いや、おれ、ワラジを履いてるんだ。おれぁ、いっぱいワラジ履かなきゃならないもんだから、出だすのは遅くて駄目なんだ。」
 それから<百足の医者呼ばり>っていって、どんなに足がいっぱいあっても、何かかにか欠点があるもんだから、この人こうだ、なんてばかり言えないもんだと。
どーびんと。